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組み立て式セカイ

※かなり特殊な設定です。苦手だと思われた方はブラウザバックしてください。
※ベレト先生の精神が危うい感じです。所謂『病み』系要素を含みます。



 選ぶ。
 組み立てる。
 歩む。
 辿り着く。


「……違う」


 壊す。

 選ぶ。
 組み立てる。
 歩む。
 辿り着く。


「……これも、違う」


 また、壊す。

 何度繰り返したかわからない行程を、ベレトはまた行う。最初の頃はこの行為に悩んだこともあったが、それを後悔するような精神は既に摩耗し残っていなかった。
 これが許される行為などと思いあがったことはない。それでも最早戻れないところまで来ているのは理解している。
 間違ったのならば、間違い続けなければいけない。


「違う」


 一人、ぽつりと呟いた言葉は虚空に消える。
 朝焼けが目に眩しい。これはきっとこのフォドラの人が待ち望んだ景色だ、守るべき尊いものだ。けれどベレトはそれを是と出来ない。
 自分が擦り減っていく。心に開いた穴が広がっていく感覚がする。自分が間違っていることをしているという自覚は、こんなにも自分を苛むのかと眉を顰めた。
 だがそれでも、たとえ自分が絶対的に間違っていても止めたくない。その自己中心的な我儘の元、ベレトは手を伸ばす。
 動いていない心臓が、酷く煩く脈打つような錯覚を覚えた。


『おぬし』


 声が、した。
 聞こえるはずのない声だ。自分にしか聞こえない声だ。
 けれどそれに驚きはしない。彼女≠ェ現れるのなら、きっと今だろうと思っていたから。


『ようやりおる、何回目じゃ?』
「……五十を超えた辺りから、数えていない」
『ふん。そうじゃろうと思うておったわ。よいよい、期待などしておらん』


 声に似合わぬ話し方にベレトは少し口元を緩める。
 懐かしい声、懐かしい話し方だ。もうすぐ懐かしいものではなくなってしまうけれど、これはベレトにとって一時の安寧だ。
 一つ瞬きをする。朝焼けに彼女≠フ幻影が見えた。


『じゃがのう。おぬしも薄々気づいておるのじゃろう?』
「…………」
『ここまで六千五百三十回。よう保った方じゃが、それも次で終いじゃ』
「……覚えてるじゃないか」


 目を伏せる。彼女≠フ言わんとしていることはわかっている。
 これ以上は無理だ。自分の体には大きすぎる力に呑まれるか、或いは自分の精神が壊れてしまうか。そのどちらかはわからないが、きっと次以降はそこが終着点だ。ベレトは既に限界が近い。
 だから、次が最後。どれを選び、どれを組み立て、どれを歩み、どこに辿り着こうとも、破壊できない最後が次だ。


『ここに来るまでに幾らか良い世界はあったじゃろう。こことて、比較的よい末路じゃ。それでもおぬしは……』
「ああ」


 彼女≠フ問いかけを最後まで聞くことはない。聞く必要がない。
 ベレトは変わらない。彼女≠ェ何を言おうと何を思おうとベレトは変われない。
 変わってはいけない。今まで自分の我儘のもとで壊し続けてきた世界は、この世界のために壊してきたのではないから。


「ナマエのいない世界は、どれだけいいものであっても、自分にとっての天国ではないから」


 この世界にいない、愛しい人の名前を呼ぶ。
 戦争の最中で命を散らした彼女の顔を、今でも鮮明に思い出せる。六千五百三十一回、死んでいった彼女の顔全て。
 気が狂いそうだった。忘れた方が楽だった。それでもベレトは完全に狂うことは出来ず、忘れることも叶わない。
 それでいい。自分が、自分と彼女≠セけが、この悪行を知り、行使し、愛しい人を生かせるのだ。忘れてなるものか。


『まるで天獄てんごくよな。よい。おぬしの覚悟はとうに知っておった』
「……すまない」
『は〜? 今更謝るでない、謝られとうないわ!』


 それもそうか、と苦笑した。
 彼女≠フ幻影が朝焼けに滲んでいく。これが最後だと思うとその光景がいやに美しく思えて、ベレトはほうと息を吐き出した。
 それから、口を開く。


「……次の……」
『なんじゃ?』
「次の世界では、きっと自分にとっての最良を手にする。……その時までよろしく、ソティス」
『口だけは達者になったのう!』


 からからと笑うソティスにつられてベレトも笑った。伸ばした手がソティスに触れる。
 世界が捻じ曲がる。世界が巻き戻る。


「──天刻てんごくの拍動」


 そうしてひとつの世界は終わりを告げられた。







「──ト、ベレト。起きて」
「……ん」


 ベレトを呼ぶ声がする。待ち、焦がれ、望んだ声だ。
 うっすらと目を開く。目にかかる髪の毛が暗い色をしていることを認識し、安堵の息を漏らした。
 身体を起こし、声の主を見る。じっとこちらを見る眼は汚れを知らない色をしている。


「寝坊よ、ベレト。貴方、朝は得意な方だと思っていたのだけれど……」
「……すまない。随分と長い夢を見ていた」
「夢?」
「自分が……皆の前に立って、戦争を、生き抜く夢」
「戦争って……」


 夢じゃない。
 それは自分が壊した世界の残滓。自分にしかない記憶だがどうしようもない真実だ。
 その蓄積はベレトを侵し、呑みこみ、殺していく。そんなことは分かっている。そう認識したのは五千五百二十三回目だ。
 それでも望んだものはここにある。望んだ世界を、望んだものと手に入れるために人でなしになった。
 だからベレトは望んだ愛しいものに手を伸ばして言う。六千五百三十二回目のおはようを。


「おはよう、ナマエ。また今日も歩もう」


くみたて式セカイ




2020.05.13
Title...ユリ柩


つまり:何十年単位で天刻の拍動を使えるようになってしまったベレトが、戦争で必ず死んでいく愛しい人を生かしたいがために世界を組み立ててやり直していく話