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拝啓、ありがとう神様

※透魔、というよりもif全体に関する多大なネタバレを含みます。古文書の記述バレを知っている、古文書を解読した人、もしくはネタバレが大丈夫な方のみお進みください。
※夢というよりは夢主独白に近いです。













 カムイ様に付き従い、この軍に身を置いてどれだけの時間が経ったのだろう。
軍に身を置く前と変わったことといえば真っ先にあがるのは住居で、それ以外のことはあまり変わっていない気がする。

 カムイ様のために戦い、カムイ様のために働く日々。
 ジョーカーと似たようなことを言ってる自覚はあるけれど、それが事実だ。ジョーカーほど壮絶な過去はもってないけれど、カムイ様を想う気持ちはジョーカーにも負けてない。と思う。

 兎に角、だ。そんな前とはあまり変わらない日々の中で、ひとつだけ大きく変わったことがある。暇なときの、私の過ごし方だ。
 昔はジョーカーよろしく昼寝か、あとは万が一に備えて鍛えるくらいしかすることはなかった。けど今は違う。

 この場所は普段私たちが過ごしている場所とは切り離された空間にある……いわば、異世界のようなものだ。
 その異世界のひとつに、カムイ様が統治なされる世界がある。それが私たちの拠点。

 鉱石や作物が取れたり、お店があったり──お店は私達ここに住む軍団員が時間替わりで当番をしている──、温泉があったり……わりと娯楽施設も充実している。

 そんな中、私が入り浸ってるのは資料館だ。ここには誰が集めておいたかはわからないけれど、いろいろな資料がある。
 映像や音楽を流す絡繰があったり、物語を読み返せたりと、時間を潰すにはもってこいの場所。

 そして今私が読んでいるのは、古文書だ。これこそ誰が記し誰が集めここにおいたものかはわからないけれど、置いてあるのだから読んでもいいということだろう。

 そして幸いにも私はこの古文書のルールを理解した。ゆっくりながらも読み進めていくと、そこにはアクア様が歌っていた歌の歌詞や昔話などが出てくる。
 今日は、何を読もう。手にとった古文書のタイトルを法則によって読んでいく。


「……おう、けの……ち?」


 王家、王家。私にとっては近しいものだ。だって私が仕えている人は王家の人間であるカムイ様なのだから。
 ……そう、王家。


「…………」


 カムイ様は、暗夜の血筋の人間ではない。それを知ったのはついこの間の、カムイ様が白夜へ言ったという話を聞いた時だ。
 でもカムイ様は、白夜の王家の方々とは母親が違ったはず。あの四人の方はイコナ妃の子で、カムイ様はミコト妃の。

 …………おかしい。
 四人方がイコナ妃の子供なのだとすれば、ミコト妃の子供たるカムイ様がタクミ様やサクラ様の兄になれるのか?
 否、確かにミコト妃が側室ならばその可能性もあったかもしれない。だけどミコト妃が側室だったなんて話は聞いたことがないんだ。
 そうして私はひとつの可能性に辿り着く。

 カムイ様の父親は。


「もしも、」


 もしも、私の考えた可能性が、ここに書いてあったとして。
 もしも、それが真実だったとして。もしも──


「……『あんやにかどわかされし』、」


 震える手で古文書を捲る、捲る。決して長くはないその文章だけれど、自国の言葉じゃないこれを読むのは結構時間がかかる。
 それでも、読まなきゃ。ここに真実があるのなら。カムイ様すら知らない真実があるのなら、従者たる私がそれを知って、カムイ様を支えなければ。



 ──そうして、数十分後、それを読み終えた私は虚脱感に襲われていた。ああ……笑えない、笑えない。

 カムイ様が竜になれる理由も、竜脈を使える理由も、全て父親があれ≠セったからなのだ。
 カムイ様、カムイ様。あなたは知らないでしょうけれど、あなたはとてもとても悲しいお人だ。

 きっとあれ≠ヘあなたのことを息子だなんて思っていないのでしょう、あれ≠ヘ息子がいることなんて知らないのかもしれない。後者の方がきっと都合がいい。
 どうかそのまま、あなたもあれ≠ェ父親たることを知らないでいて。知ってしまえばあなたはきっとおかしくなってしまうから。


「あ、こんなところにいたんですねナマエさんー!」
「……フェリシア」


 パタパタと駆け寄ってくるフェリシアを前に私は古文書を閉じる。きっと彼女はこれを解読することなんてできないけれど、彼女がこれを知ったとすればきっと大きいショックを受けるから。
 どうかした、と首を傾げればフェリシアはにこっと笑顔で私にいう。


「カムイ様がお呼びですよ! もうすぐ軍議の時間ですし、いきましょう?」
「わかった」


 古文書を元の場所に戻して、フェリシアについていく形で資料館から出る。
 途中、なんとなく何かを言いたくなってフェリシアの名前を呼んでみたけれど、その次の言葉がうまく出てこなかった。どうしました? とこちらを向くフェリシアになんでもないとはいいづらくて、仕方なく胸中の言葉を口にした。


「私は、カムイ様をずっと守っていくつもり」
「? 急にどうしたんですか? 私もですよっ」
「……うん。それでも、いいたかったんだ。たとえカムイ様がどんな存在であったとしても、私を救ってくれたのはあの人だから」
「??? 今日のナマエさん難しいことをいいますね……?」
「……そうかもね」


 資料館を出て空を見る。この空があの世界≠ニ繋がっているかは分からないけれど、なんとなく見れずにはいられなかった。
 あの世界≠ゥらカムイ様を絶対に守ると再び誓って、私はまた、歩き出す。




拝啓、ありがとう神様
(拝啓、忘れられし神)(私やカムイ様の目的とは相容れないけれど)(カムイ様を生んでくれたことだけは感謝してやるわ)



Title...反転コンタクト
2015.07.15 執筆



↓↓↓反転で解説(ifネタバレ注意)

カムイ様の父たるあれ=異形神ハイドラ。カムイはハイドラとミコトの息子。
あの国=透魔王国。カムイの本当の祖国。

古文書
暗夜に拐かされしミコト女王の
幼子は白夜の血筋にあらず
スメラギ王の子にあらず
幼子のまことの父はハイドラ
幼子はハイドラとミコトの子

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