17

 

‐光視点‐


『黒狼はな精気があらへんと生きていかれへんのや。
やから殺せ、そして生き延びろ』



俺は黒狼。かつて化狐と争った経験がある。
その戦いで黒狼の大幅は全滅。仲間は居らん、て言っても過言ではない。まぁ、仲間言うても上辺だけのモンやけど。大体は一人でやってきたし。

その際に俺はある狐の左腕に呪いをかけた。
だが、それと同時に俺も呪いをかけられた。
それは容姿。俺は今見た目からすると5才ぐらいの見た目だが、実際だと15ぐらいは余裕である。
その呪いを解く為に俺はこの時代にいる。多分ヤツも同じ目的でこの時代に居るやろ。


俺等、黒狼は生きて行くためには"精気"が必要だ。この時代では人間の、やな。







俺のターゲットは忍足謙也。
コイツは馬鹿正直っちゅーか色々アホなやつや。ちょお面倒くさいトコもあるけど、まぁえぇカモや。
しかし、なんやかんやで忍足謙也と兄弟になってしまった。まぁ形だけの口約束やけど。
挙げ句の果てには“謙也さん”呼び。いくら怪しまれないように装うと言っても、これはやり過ぎたよなぁ……?
何やっとんのやろ、俺。

馴染みの深くなったところで今日は仕掛けてみようと思う。
俺も腹減っとるし。
一応、人間界のモノは食せるし、腹にも溜まるのだが美味しくもなんともない。味を感じないのだ。だから食べた感じもしない。
俺ら黒狼は精気が主食やから、それしか受け付けない構造になっているらしい。
今回は嬉しい事に忍足謙也は物凄くポジティブな性格……つまり純粋。
何が嬉しいかというと、人の精気は白ければ白いほど美味い。俺らの世界の獲物はだいたい腹黒い奴らばっかやったからこないに白い精気久しぶりに見たわ。それはもう食わなくても見た目でわかるほどやった。

普通やったら会うた瞬間に…手当てしてもらっとる瞬間に記憶まさぐって殺して精気奪っとるところやけど、忍足謙也は本当にいいカモなのだ。
なんせ、人間のクセに化狐とつるんどるんやから。
近づかれてわかった、あの匂い。忘れもしない、あの匂い。
そう、――――――――――――――――――――――――――――………………………シライシの匂い。

通常、こんなにも匂いがつくなんておかしいのだ。化狐も獣の匂いは一応制御しとるから。
やからシライシと忍足謙也は結構な関係があるのか?、と踏んだ。
このまま忍足謙也とつるんでいれば、どうにかシライシと接触出来るかもしれない。シライシに怪しまれても、忍足謙也を味方につけていれば怖いものなしだ。

俺は忍足謙也に自分の匂いをわざと付けた。
シライシにもわかるように……


すると案の定、何かあったらしい。
焦った様子の忍足謙也がここに来た。自分自身では隠しとるつもりやろうけど、バレバレや。

こんな状態のやつを少しばかり襲うのはいただけないが、有言実行。俺は行動に出た。

「謙也さん、ぎゅー。」

「へっっ!!?」

わけわからんとかなんとか言っとる忍足謙也をよそに俺は半無理矢理、忍足謙也に抱きついた。

精気を奪う方法は大きく分けて2つ。
ひとつは直接。まぁ属に言うキス。あ、深いほう!!ディープキス、やな。いつもやったらこっちの方法。単純に言うと殺した後に、勝手にキスする。殺してまうと精気は抜けて無くなってまう、て思うやろうけど、寧ろその逆や。抜ける瞬間をいただくんや。人の精気は口から抜ける言うからな。
でも今つかうんはふたつめの面倒くさい方。
相手を包み込んで、全体から精気を吸い取る方法。これは生きとる場合専用のやり方。包み込む言うたけど実際は今やっとる様に抱きしめるだけ。でも、効果は充分にある。

ほら……、

クラッ、

もう少し、

「……、え?」


多分今、忍足謙也は貧血状態。目眩だとか頭痛だとかが彼をを襲っている事だろう。
精気を吸われとる訳で、そんでもって生きとる訳やから勿論、忍足謙也へのダメージはかなり大きい。
ここで恥ずかしい話だが、俺は今忍足謙也の精気を半分も吸収できなかった。
否、忍足謙也の精気があまりにも強すぎて吸収しきれなかったのだ。
半分ぐらいは抜いてやろうかと思っていたのだが……これは驚きだ。


「ちょ、スマン。今日は一旦帰るわ……」

「大丈夫ですか?」

「お、ん……」


“大丈夫ですか?”
なんて。


俺に言う権利なんてないよなぁ?

でもご馳走様でした。
“謙也さん”。
あとはちゃんとシライシに現状報告して下さいよ?

俺はアイツに頼み事があるんですよ。


……それと同時に、
復讐したくて仕方ないんやから。