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俺の最初の仕事は落ち葉掃きから始まる。この時期は枯れ葉が沢山落ちるし、この神社はめちゃくちゃ広いわで一人ではかなり大変な仕事だ。


「ん、しょっ……と、ん?」


木々が並ぶその奥に小さな人影が見えた。


「誰か居るん?」


返事は、なかった。


「……っ、誰か居るんやろっ!!!?」


人を簡単にほっとけないっちゅー話で、俺は木々をかき分け奥へと進んで行った。するとうずくまっている少年が一人。


「大丈夫か!?自分?」

「…別に、へーきっすわ」


それは五才程の小さな少年で、足を怪我しているようだった。なんや血ぃだらだら出とるし……ただの怪我ではなさそうだ。


「自分!!治療するさかい、動かんといてな!!」


「はっ!?」


俺は勿論、治療道具などは所持していないので、無駄に長い袖を破り包帯代わりに少年の膝へあてがった。
所謂応急措置や。


「いた………っ!!」


「スマンな、今消毒とか無いからちょおガマンやで?」


そして血が滲まないように両袖の生地を使い、二重に巻く。多分これで大丈夫やろ、うん。


「へーき言うたやないですか……」


「何言うとるん!!そないに血ぃ出して!立てん程辛かったんやろ!?それに、子どもは大人にもっと甘えてえぇんやで!?」


「自分かて子どもやん。まだ高校生ぐらいやろ?」


「うーわ!!何言っとんねん!高校生かて立派な大人やで!……さ、お母さんトコ行こか!まだ歩くん辛いやろうから俺の背中乗ってえぇで」


と、俺はしゃがんだが、少年は俺の背中に乗る素振りは見せなかった。


「え、どしたん?」


「行く必要あらへんからえぇよ」


「何?迷子?」


「親、最初からおらんし。俺捨て子だから。」


「すて………」


「まぁ最初から親とか要らんかったし丁度良かったけど。」


なに?こないなちっこい子が親要らんとか言うとる……?
俺も親と離れて暮らしているけど親が要らんとか思った事ないし。多分この子は親の温もりだとか家族を知らんのかな、て思った。そして俺はなんて恵まれているんだろうと思った。
親に可愛がってもらったり、でも時にはきちんと叱ってもらったりして……


でもこの子は――――………


「………何でアンタ泣いてるんすか?」


「え、」


うわ本当だ。俺泣いとる。でも泣かざるをえないだろう?


「……っ、なぁ、自分……名前は?」


「無いっすわ。親よりも必要あらへんやん、そんなん」


驚愕した。名前が無い…?今、もしもこの子の親が現れたなら一発……いや百発ぐらいぶん殴ってやりたい気分だ。
そして同時に涙が更に溢れたのを感じた。やってこの子から紡がれる言葉は名前必要ないだとか親要らんとか全部悲しい事ばっかなんやもん。
妙に大人っぽい性格やと思ってたけど親が居らんくて、全部自分でやっとったからなんや。人に頼るという事を全く知らないんだ。知らないというよりは知る事が出来なかったんだ。


俺は思わず少年を抱き締めた。


「え、ちょっ!?」


「俺が今日からお前の親や!やから俺がお前の名前も考える!!」


「はぁ……?」


……とは言うものの名前なんてペットのイグアナにしか付けた事がなくて…どないしよ……


「す、スピードちゃん!!」


「却下。」


「スターちゃん!!」


「却下………ってアンタふざけとんのですか?」


ひゃあああぁぁぁ!!我ながらふざけすぎたっちゅー話や!!うーん、スピードも駄目、スターも……あ、スター=星………で、星は光っちゅー話で………!!!?


「ひかる!!光っちゅーんはどうや?」


「まぁさっきのよりはマシやし、えぇんやないですか?」


「ふふ、じゃあ決定やな!!よろしく!光!!俺は忍足謙也。んー…謙也お兄ちゃん?…うん!!謙也お兄ちゃんって呼んでや!!」


「お兄ちゃんとかキモいっすわぁー謙也さん」


「おぉ!!その謙也さんっちゅーのええな!なんや新鮮や!!」


光は呆れたように溜め息をはき、こう続けた。


「それでアンタマジで親になるつもりなんすか?俺一応、苗字と家はあるんですけど」


「あ、そうなん?苗字あるん!?」


「財前、っすわ」


「財前光……めちゃくちゃ語呂合わせえぇやん!!
あー……じゃあ親は流石に無理そうやから、俺、光の義理のお兄ちゃんになったるわ!!寂しくなったら……いや、いつでもここに来てや!!俺この時間やったら大体ここにおるから!!」


すると光は照れたように頷いた。
その時光の笑顔を初めて見た。なんや、ちゃんと笑えるんやん。


「じゃあもう足大丈夫なんで行きますわ、………………おおきに、謙也さん。」


「ん!またなっ!!」



俺は次は何時光に会えるやろ、とか破った袖白石さんにどうやって説明しようとかそないな事を考えとった。

やから忘れてたんや。

白石さんから言われた警告。老若男女問わず、黒髪の人に近づいてはいけない事を。


光が、黒髪だったという事を。