「まーくん、雪なのー!」
「そうですね、藤原さん」
「…まーくん、雪ナノー。」
「何をなさっているのですか、貴女は」


初雪だ。
今年では暖かいなぁと思っていたら外は白く染まっていて驚いた。
真っ白な雪が、外を飾っていく。
まるで、生クリームのような…と考えたところで振り出しに戻る。

生クリームのついたケーキが平家の机の上にあって、ネネちゃんも側にいて、ふと真似をしてみた。


「んー…ネネちゃんの真似ー。ケーキ頂戴」


外へ駆け出して行くネネちゃんを横目に、平家へと告げる。


「貴女がケーキだなんて、珍しいですね」
「ん、そう?」


フォークとケーキを静かに差し出す彼を見て返せば「えぇ。」と短く言われた。


「雪が…雪が、生クリームみたいで」


真っ白く、子供たちをはしゃがせては、直ぐに溶けて消えてしまう。
そんな、甘く切ない両者は、なんか


「…平家達、CODE:BREAKERと似てる気もした」


私はただの生徒会の一員だけど、不意に耳にしてしまい、彼等の存在を知った。
目撃者は消す、というルールを破り、私の事は生かしてくれた。
それでも、あの時見た…否、私へと向けられた青い炎と、大神くんの冷酷な目は今でも忘れられない。
平家が居なければ、私は確実に消されていた。

存 在 を 。


「そうですか」


少し考え込むような表情を見せたけれど、普段の静かな口調に飲み込まれて、消えた。

外から聞こえる他のCODE:BREAKERや桜ちゃんの声をBGMに、私達の間には静寂が流れる。
掬って、口へ運び、溶けてなくなる。
上品なケーキの味はまるで、消えてなくなった私達の言葉のキャッチボール。


「…平家はさ、」


静けさを破って出てくるのは、甘酸っぱい苺の味。


「ニヤニヤして、変な本片手にお茶してる方が似合ってるよ」


平家は目を見開いた。


「馬鹿にしているんですか?」
「違うよ。平家にシケた面は似合わないって事。何を悩んでいるかは知らないけど、桜ちゃんやネネちゃん、それに仲間の彼等もいる。平家は一人じゃないんだから、さ」


御馳走様、と一方的に口にすれば私はネネちゃんの上着を片手に室内から出て行く。
ここのところ、平家はボーっとしているように見えた。
それは、どこか悩ましげに。

外へ出れば例の子達がはしゃいでいて。


「ネネちゃん、上着ちゃんと着ないと風邪ひいちゃうよ?」
「んー!」


強引に着せてやればきゃあきゃあと駆け出して行く。
まったく、と見守るような息をつけば、声を掛けられた。


「名前先輩!」
「…桜ちゃん」
「お、名前や!クリームついとるで。…にばんと居たんか?」
「え、どこ?平家にケーキ貰ったからかな」
「にばん、来るんかな?」
「来るんじゃないかな?」
「珍しいなぁ」
「そうね」


遊騎くんもなんだかんだ平家のこと気にしているんだな。
幸せだね、平家。
遊騎くんに笑いかければ後ろから重みがかかる。


「名前先輩、久々だネ。会いたかったヨ」
「刻くん。ネネちゃんと遊ばなくてもいいの?」
「ねーちゃんは盛大な雪だるま作ってるからネ…オレの入るスキはないカナ」
「雪だるま…」


何か、ピンと来た。


「遊騎くん、ネネちゃんと雪だるま作ってきて!」
「寧々音とか?」
「うん」
「わかったし!」


ダッシュでネネちゃんの方へと向かう彼は少し猫の面影があって。


「…先輩、今度は何企んでンの?」
「人聞き悪!」


体重を私に委ねたままの彼は前方を見て小さく「ゲッ…」と漏らす。
その声で私も前を見やれば体が硬直した。


「…貴女は、」


大神くんだ。

あの日以来、会わないようにしてきた。
私が意図的に避けていた。


「クリームつけて…何をしているんですか」


そう言えば指でクリームを取ってくれる。


「え…」
「また何か行動するのでしょう?早くやらないのですか?」
「そ、そうね」
「…貴女はもう排除しようとはしませんよ。平家があそこまで必死になったんです、後々面倒ですので」


ふぅ、なんて息を吐き、刻くんを私から剥がす(刻くんは何すんダヨ、とか言ってるけど)。


「…有難う!」





「出来た…」

目の前に並ぶ雪だるま。
小さいのが六つ、大きいのが一つ。


「名前さん?」
「平家」


向こうから平家が歩いてきて、側で止まる。


「…これは、」
「わかる?私が作ってみたんだけど…。CODE:BREAKERの四人と、桜ちゃんとネネちゃん。で、大きいのは平家」


作品を一つ一つ指差しながら説明し、平家に向き直る。


「平家はいつも彼等を見守る大きな存在。…私は平家達CODE:BREAKERのこと忘れないよ?ずっと。存在しない者になんてさせない。私がー…」


言い終える前に、唇へと触れた感触。


「え?」
「何ですか」
「今…キ、ス……」
「別に意味は無いです。ただ…ただ、少し愛しいと思いました」


私は思わず服の袖で拭いてしまえば「失礼ですね」と悪態を吐かれた。


「…一つ、足りませんよ」
「は?」


平家が手に取った雪は、だんだんと姿を変える。


「…私?」
「えぇ」


互いに微笑みあえば、未だ降り続ける雪の中、もう一度だけ口付けを交わした。



今宵、雪空の下で。

(誰も知らない口付けは)
(何よりもケーキみたいで。)

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