「…あ、雪」


年が明けた。
人見さんが亡くなって、初めての年明け。
そして今日、今年初の雪が降ってきた。
…以前は、人見さんがCODE:BREAKERだったときは一度だけ一緒に遊んだなぁ。





―――名前。


「名前!ほら、雪だよ」
「雪、ですね」
「なんだ、浮かないねェ」
「あまり興味ないので」


そう、私がCODE:BREAKERになりたてで、何にも関心を示さなかった時のことだった。
CODE:01…エースの人見さんが心を開かない私を気にかけてくれていて、よく話し掛けてくれていた。
その頃の私はただただ面倒だとしか思っていなかたけれど。
今となっては、それは後悔の塊でしかなくて。


ボンッ


「った!?」


会話を終え、本へと目を戻した私の右頬へとかなり冷たい物体がぶつかった。
その方向へと視線をやれば、ニコニコと笑みを浮かべながら欠伸をしている彼の姿。


「何するんですか、CODE:01!」
「何…って。遊んでいるだけだよ」


そう告げれば再び此方へと雪の塊を投げつけてくる。
その姿はあまりにも大人気なく、無邪気な子供の様だった。
無視を極めていたものの、あまりのしつこさに私も限界を感じた。


「っ…しつこいですよ!?」
「わっ」


瞬時に作った雪の球をCODE:01へ向かい仕返しのつもりで投げるも、あっさりとかわされてしまった。


「何故避けるんです!?」
「えー、だって冷たいでしょ?」
「はぁ!?…こうなったら私が味わった分だけ食らわせてあげます、覚悟してください!」
「そう…って、わぁ!速いなぁ…」


元々運動は嫌いではなかった。
球技には自信さえあった。
後に素手で行ったことを悔やんだけれど。


「手、痛…」
「ははは、名前もなかなかやるね」
「…CODE:01には勝てませんでしたが。次は絶対勝ちます」
「興味を示してくれてよかった」


その台詞に私は固まった。
…まさか。
ハメられた…?


「ハメましたね!?」
「あぁ、うん。上手くハマってくれたよ」
「なっ…」
「何にも関心を持たないのはつまらないだろう?」


形は少し歪だけれど、私はその姿に心を動かされたことが分かった。


「…有難うございます、人見さん」


目を閉じ、微笑み、そう告げた。
私が人見さん、そう初めて呼んだ瞬間。


「来年!来年は勝ちます!」
「楽しみにしているよ」





その日から人見さんは私にとって大切な存在となった。
それでも、その約束は叶うことは失くなってしまった。
泣いた。泣いた。静かに、泣き喚いた。
勿論仲間の彼らは泣きはしなかった。
私の大切な、大好きなその姿を見ることは、もうできない。
その日は、何よりも鮮明に脳裏に焼き付いている。


名前、ごめんね


最後に小さく残したメッセージに、言葉なんて出てこなくて。


有難うございました


そう伝えることが私の精一杯だった。
沢山迷惑かけて、その度助けてくれて。
どこかに大好き≠ニかいう感情があることに薄々気付いていた。
けれど、それを伝えるのは酷に思えて。

―それからは、どこかで雪を避けていた。

雪の話題に耳を塞ぎ、見えるものなら目を隠す。
そんな風にしてきた。

…寒い。

窓もカーテンも閉めよう。
そう立ち上がった。


「名前ー!」


外から聞こえる、いつもの声。


「名前も一緒に遊ぶのだ!」
「名前、雪ダルマや、雪ダルマ!」
「こんな日のお茶も悪くはないですよ?」
「ほら、名前チャンもコイツにぶつけてやってヨ」
「何でオレが…っ、」
「名前、来いよ」


それは、桜ちゃんという珍種に、仲間…。


「…まったく」


人見さんは、凄いものを残していったね。


「今行く!そこで待ってな!」


この人たちが人見さんの思い出の一つなら、私は、それを大事にする他、何があるだろう?

この雪に、思いを込めて。


「人見さん…有難うございました」
「名前?何か言ったか?」
「なんでもないよ、桜ちゃん」


拝啓、人見さん。

降り積もる雪に、私の気持ちを預けます。
人見さんと共にこの雪を見ることができないのはとても寂しいです。
でも、もう少し…
もう少しだけ、人見さんが残してくれた仲間たちと一緒に頑張ってみようと思います。


 ―いつか、また出会えたら

    約束、守ってくださいね?



(またいつか)
(出会えると信じて)

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