岩泉とは昔から仲が良かったけど、私はいつしかもっと別の感情を抱いていた。
それが何なのかはわりとすぐに理解したものの、それを口に出すことはしなかった。…いや、できなかった。
結局のところ、今の良好な関係を崩したくなかったのだ。とどのつまり私は弱虫なのだろう。
好き故に、高校も岩泉を追った。「また一緒だな」と笑う岩泉に悪態をついたのも、もう数カ月前の話。
そこには及川も勿論いた。
人気なのを自覚している及川と、なんと自分は人気などないと思い込んでいる岩泉。

そんな二人と絡みが多いこともあってかは知らないけれど、それはもう酷く女子に疎まれた。

味方してくれる友人もいたが、心優しい彼女らも、岩泉も及川も、巻き込みたくなかったから距離を置いた。
傷つけたかな。
素気のない態度をとるたびに私の中は黒い罪悪感が渦を巻いた。
私が強かったらみんなを傷つけることなく乗り越えられたのだろうか。
ああ、寂しいな。

「おい」

声を掛けてきたのはそんな時だった。

あの鈍感な岩泉が珍しく察したのか、とどこか遠くで冷静になりながら私は走る。
いや、逃げられるわけないだろ!と自分にツッコミをいれる間もなく腕はぐい、と引かれた。

『離、して』
「離すかよ。何も言わず避けやがって。これ、何だ」
『そ、れは、』

脈打つ腕を掴むのと反対の手には無くなったと思っていた、自分が所持していたときとは比にならないくらいボロボロになった私の上靴。
どうして、岩泉が持って。
思考が追い付かない。
それは女子がどこかへやったものでしょう?
どうしてそんな、あんたが泥で汚れてまで持ってきたの?もう、半分忘れかけていたのに。
どうして、何故―――。

「苗字。お前隠すの下手すぎなんだよボゲ!いくら俺でもお前が変なのくらい気付くっつうの何一人で溜め込んでんだオイ俺と及川の気持ちすら無視か?」

びくり。
怒声に大きく肩が揺れた。

岩泉の目が真っ直ぐに私を捉える。
やめて、みないで、汚い私を。

「…あのな。お前もう少し俺らのこと頼れねえの?」

岩泉はいつだって真剣だ。
いつだって私のことを、周りのことを考えてくれる。
頼れる人なことをわかっているから頼ってしまいそうになる。

『…放っておいてよ』

迷惑かけたくないの。
双眸から溢れる雫は自らの意思では止まらなく、頬を濡らす。沈黙が重い。こんなにも長く話さなかったことがあっただろうか?

「そうかよ」

離れた温もりは遠ざかる。
ねぇ、どうするのが正しいのかわからないよ。



沈黙のおもさ
(最善策は何処に)

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