危なっかしい


キーンコーンカーンコーン。

「席着けー。ちづ…雪村がいねぇな」
「保健室です」
「保健室?」
「なんか怪我したらしいです」
「そうか…。授業始めるぞ、教科書開けー」


チャイムが聞こえる。授業が始まってしまった。
ため息をつきながら左足を見ると、湿布を貼った上からテーピングで固定されている。

「軽い捻挫だと思います。学校が終わったら、必ず病院に行ってくださいね」
「はい…ありがとうございます」

椅子から立ち上がり、急いで教室に戻ろうとすると、左足に痛みが走る。

「無理しないこと。走ってはだめですよ」

後ろから先生の声がとんでくる。
仕方なく、左足を庇いながらゆっくりと移動する。
保健室から教室までの距離がいつもの倍に感じる。ただでさえ遠いのに。

ガラッ。

後ろ側の戸を開けると、土方先生と目があった。
一瞬、顔がしかめられる。

「大丈夫か?」
「はい」

頷くと、授業が再開された。
不機嫌に見えたのは授業に遅れたから…?

その日、放課後まで土方先生と話すことはなかった。

やっぱり怒ってる。どうしよう…。謝れば許してくれるかな。
意を決して準備室の扉を叩く。

コンコン。

「失礼します」
「おう、…千鶴か」
「はい。あの…、すみませんでした」

先生の顔を見るのが怖くて深々と頭を下げた。

「…何のことだ?」

聞こえたのは面食らったような声。

「今日の授業、遅れてしまって…」
「ちょっと待て、千鶴」

先生が椅子から立ち上がり近づいて来るのがわかった。

「顔を上げろ」

おずおずと顔を上げる。

「お前、俺が怒ってるとでも思ってたのか?怪我したなら仕方ないだろ」

優しい顔で頭を撫でてくれる。

「でも、さっきは…」

確かに怒っているように見えたのだ。

「あー…それはだな」

先生は気まずそうに目を逸らした。

「……自分が…かった…かな」

小さく呟くその言葉はよく聞き取れない。

「先生?」

呼びかけるとパッと目があった。

「俺のいないところで怪我してんじゃねえよ」

真剣な目。
怒ってたんじゃなくて、心配してくれたんだ。

「守れないだろ」

自分の身を案じてくれる。守ろうとしてくれる。

「ありがとうございます」

ゆっくりと抱きしめられる。まるで壊れ物を扱うかのように優しく。

「危なっかしいよ、お前は」
「…はい、すみません」
「目の届くところにいてくれ」

包み込むその体温、その声が、私を満たしていった。




危なっかしい


(俺が守ってやるから)(はい!)


2013.02.05






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