だって好きだから



「ただいまー…っと」

 暗い部屋の電気をつける。
 待っているはずの同居人は、当然のように眠っていた。

「…仕方ないっスよね」

 少し寂しい気もするが、わかっていたことだ。


 目指していた大学には、学力が届かなかった。
 モデル業に専念して、バスケもやらなくなった。
 高校時代の生活とはなにもかも変わってしまった。

 すべて大好きな人と一緒にいたかったから―。

 しかし今、それが逆に時間を奪っていた。


「センパイ、今日面白いことがあったんスよ」

 寝ていると知りながら話しかける。少し硬質なその髪に触れながら。
「……ん…黄瀬…」
 起こしてしまっただろうかと様子を見るも、目を覚ます気配はない。
「…寝言っスか。オレの夢見てるんスかね」
 笑みがこぼれる。
 会えなくて、少しくらいは寂しいとこの人でも思ってくれるのだろうか。
「オレも寝ようかな…」


 寝る支度を終えて、二人用にと買ったキングサイズのベッドに潜り込む。

「おやすみ、センパイ」

 すっぽりとおさまるその身体を抱きしめる。

「……んだよ…」

 腕の中で身体が反転し、先輩の顔がこっちを向いた。そして、背に腕が回される。
「…いつになく甘えたっスね」
 撫でれば擦り寄ってくる。センパイ、可愛すぎ。
 普段からもっと甘えてくれていいのに。

 ちゅっ。

 額にひとつキスを落として目を閉じた。



「……せ。…い、…黄瀬。おい、黄瀬!!起きろ!!」
 鈍い痛みが脚を襲う。おそらく蹴られたのだろう。
「んー…センパイ?何スか、朝から」
「何スか、じゃねぇ!!離せ!!」
 目を開ければ、昨日寝た形のまま、センパイを抱きしめていた。

「だってセンパイがくっついてきたんスよ?」
「うるせぇ、離せ。起きれないんだよ。……あたってるし」

 心なしか、センパイの顔が赤い気がする。
 少し考えて理由がわかった。
「これは仕方ないっスよー」
 わざと押し付けるようにすれば
「バカ、離れろ!シバくぞ!」
 そう言いながら蹴りつけてくる。

「じゃあ…キスしてくれたら離れるっス」

 センパイの動きが止まる。
「好きだ、って言ってくれるのでもいいっスよ」
 言ってくれないだろうとは思ったけど。

「ほら、センパイ。どっちでもいいんスよ?」
「…っ」

 抱きしめたままなのをいいことに耳元で囁く。

「オレはセンパイが大好きっスよ」
 何度も何度も、好きだと繰り返す。こうすれば可愛い顔が見れるから。

「……やめろシバくぞ」

 ほらね、照れてる。
「好きって言…」
「言わねぇからな、絶対言わねぇから!」
 うん、想像通り。
「じゃあこのまんまっスよ?」
「〜〜っ」

 ちゅっ。

 昨夜寝る前にオレがしたように、軽いキスをひとつ落とす。
「これでいいんだろ」
 ああもう、その顔反則。
 腕を離す前に肌に吸い付く。赤い花がそこに咲いた。

 確かに自分のものだという印。
 子供っぽい独占欲の塊。

 満足して腕を離せば、起き上がったセンパイがぶっきらぼうにオレの頭を撫でた。

「…今日は帰ってくるまで待っててやっから」

 その言葉は、単純なオレを舞い上がらせるには充分で。
「絶対っスよ?オレも頑張って早く帰るっス!」
 満面の笑みを浮かべたオレに、センパイは微笑んだ。


だって好きだから


(てめっ、見えるとこに跡つけてんじゃねぇよ!)(すんませんっス!)





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