気づいた日から




「アイス食いてぇ。コンビニ行こーぜ」

 聞こえた会話に、ふと、中学時代を思い出す。
 部活帰りにみんなでよく食べたっけな・・・。


「…もっかい!もっかいっス!!」
「あぁ?もういーだろ。アイス食いに行こーぜ」
 練習が終われば、青峰っちと勝負。それが終われば、みんなでアイス。
 いつのまにか流れが出来上がっていた。
 勝負に負けて悔しくて、楽しそうな青峰っちを見るのが嬉しくて、今度こそは勝つと毎日思いながら食べた。



 暗くなりはじめた空を見上げると、ひとつ、ふたつと星が瞬くのが見えた。
 オレは、いったいいつから・・・あの人が好きだったのだろうか。


 きっとそれは、あの日から―。



 その日はみんなそれぞれ用事があった。
 一番遅くまで練習してたオレは、誰もいない静まり返った更衣室で無駄に時間をかけて着替えた。
「みんないないとこんなに静かなんスね…」
 独り言が思ったより響く。
 消灯、施錠。そんなの普段は考えもしない。
 寂しい、そんなふと湧いた感情に戸惑う。
「お疲れ様っス…なんて」
 返事が返ってくるはずはない。
 返ってくるはずがなかった。

「おせーよ」

 暗闇から聞こえた声。
「え、青峰っち?」
「着替えにどんだけ時間かけてんだよ」
 雲が動き、月が人影を照らし出す。紛れもなく青峰っちの姿があった。
「な、んで…」
 声が掠れる。
「あぁ?」
「用事…葬式に行くって…」
「抜けてきた。正月にしか会わねー親戚の葬式なんてダリィ」
 そう言って欠伸をする。
「おら、帰んぞ」
 歩きだす青峰っちを慌てて追った。

 待っててくれたんだ。
 キミは言葉にしないけど。
 そのことがただ、嬉しくて、嬉しくて。

 いつも以上に、キミが輝いて見えた。
 目が、離せなくなった。



「黄瀬ェ?」
 その声で現実に引き戻された。
「…っ!!」
 弾かれたように振り向く。
「何してんだ?こんなとこで」
 青峰っちのことを考えていたんス、なんて言えるわけがない。
「仕事で、こっちに来てたんスよ」

 何を言えばいい?
 どうやって話してた?

「そうかよ」
 どうでもいい、とでもいうように薄く笑った。
 …まだ、青峰っちに勝てる人は現れてないんスね。
「じゃーな」
 ダルそうに歩く後ろ姿。

 待って、まだ行かないで。

 引き止める言葉が出てこない。
「あ…」
 微かに声が漏れた。
「なんだよ?」
 青峰っちの怪訝そうな声。オレは気づくと服を掴んでいた。
「…っ、なんでもないっス」
「あ?」
 だんだん苛立たしげな声に変わっていく。
 それでも掴んだ服を離せない。
「用がねーなら離せよ」
「……」
「…ハァ」
 深く息をつくのが聞こえ、青峰っちがオレに向き直った。
 くしゃ、と頭を撫でられる。

「言いたいことでもあんのか?」
 その声色からは苛立たしげな様子は消えていた。
 ゆっくりと、息を吸う。

「…オレ、青峰っちが好きっス」

 呆気にとられたような顔で固まった青峰っちを前に、どうしようもなく涙がこみあげてきた。
「……っ」
 困らせてどうする。早く泣き止め、オレ。
「お前、オレが好きなのかよ?」
 温かい指が涙を拭ってくれる。オレは小さく頷いた。
「…じゃあ怒んなよ」
 意味を聞き返そうと顔を上げると、すぐ近くに青峰っちの顔があった。そのまま唇を塞がれる。
「…ん」
 目を閉じ、身を委ねる。
 そんなに時間をあけずに唇は離された。
 意思の強い瞳がオレを射抜く。
 手首をひかれ、傾いたかと思えば、オレは青峰っちの腕の中にいた。
 強く抱きしめられ、体温を感じる。
「…オレもだ」
 低い声が耳元で聞こえる。
「え…?」

「オレも、お前が好きだって言ってんだよ」

 伝わる体温が、夢じゃないと告げる。
 再びこみあげてきた涙を見られたくなくて、青峰っちの肩に顔を埋めた。
「いつ、から…?」
「あぁ?んなもん、お前が好きだって気づいた時からに決まってんだろ」
「…そっスね」
 乱暴な物言いと裏腹に頭を撫でてくれる手はすごく優しい。
「うだうだ考えんな。オレといろ」
 シンプルな言葉に、ただ頷いた。





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