そうだ、キミと過ごそう
赤司生誕祝 そうだ、京都へ行こう。どこかで聞いたフレーズが頭に浮かんだ。明日は土曜日で、練習も午後から。神様も味方してくれてるってやつか。思い立ったらそうするのが最善のように思えて、その日オレは部活を休んだ。
▽
決して近くはない。でも行こうと思えば行けるんだ。京都の地を踏み締めてそう思う。
「すいません、洛山高校ってどう行けばいいっすか?」
説明された道順を頭に叩き込んで歩き出した。クリスマス前の慌ただしさはどこも変わらないようで、誰も彼もが急いでいるように見える。そんな人達に紛れて洛山に着いた頃には日はとっくにくれていた。
「まだいるかな…」
敷地に入らなくても、体育館に明かりがついてるのはわかる。問題は中にいるのがバスケ部かどうかってこと。いなかったらどうすっかな。家なんて知らねーし。
《もう練習終わった?》
気づけ、気づけ、気づけ。終わっててもいいから、会いに行かせて。あまり携帯をチェックしない恋人に向けて祈る。
《そんなこと聞くなんて珍しいな。ちょうど終わったところだが何かあったか?》
手の中の振動に気づいてその文面を読むと、すぐに話し声が聞こえて顔をあげた。見覚えのあるジャージ、そして集団の中に鮮やかな赤い髪の毛。
「征ちゃん!」
考える前に声が出て足が動く。駆け寄ると赤司は少しだけ目を見開いた。
「和成…どうしてここに?」
「来ちゃった」
「来ちゃったじゃないだろう。…驚いた」
驚いたと言いながら冷静な赤司にわずかな悔しさを覚える。
「赤司ー。オレ達先行くねー」
「ああ、お疲れ様」
一緒にいたバスケ部の集団を見送ったあと、さて、と微笑んだ。
「会いに来てくれたのは嬉しいけど、練習はどうしたんだ?」
「だって、今日は征ちゃんの誕生日だろ。会って祝いたいって思ったんだよ」
「…………」
返事がない。迷惑だったか、練習を休んだことを怒られるか。
「征ちゃん……?」
おそるおそる声をかけると、赤司の表情はさっきよりも驚きに染まっている。
「そうか…誕生日は一緒に祝うものなのか…」
「へ?」
「いや、誕生日を誰かと一緒に祝うだなんて、しばらくなかったからな」
すごく嬉しいよ、と笑ったその顔を見ただけで、京都まで来てよかったと心から思った。
「征ちゃん、誕生日おめでとう」
「ありがとう、和成」
「ケーキ買いに行こっか」
自然と手が繋がり、指が絡まる。普段は人前でいちゃつくのを嫌うのに珍しい。「誕生日だからいいと思ってね」なんて照れ隠しのように言う赤司は可愛かった。
そうだ、キミと過ごそう(今夜は泊めてね)(明日は練習に間に合うように帰るんだぞ)