何かが二人を分かつまで
高尾生誕祝社会人設定 お互いの誕生日を祝うのはもう当たり前になっていて、今さら特別なことをするつもりはなかった。せいぜいケーキでも買ってちょっとわがまま聞いてやるくらい。そんで優しく抱いてやれば、それで充分。男同士なんてそんなもんだろ。だから今のオレの行動は、たまたま思いついた全くの気まぐれなわけだ。
「これ、お願いします」
「かしこまりました。ありがとうございます」
こういうのって束縛になるとか言うけど、今さらこれくらいで何かが変わるとも思えない。
「ありがとうございましたー」
店員の営業スマイルに見送られて店を出ると、タイミング良く着信音がなった。
「はい」
「もしもし、宮地さん?今帰りっすか?」
「おう」
「よかった!オレもちょうど帰りで」
「駅?なら待ってろ、すぐ行くから」
「了解でっす」
電話を切って来た道を歩き出す。手にした小さな紙袋は鞄にしまい込んだ。
▽
付き合って十年近く、一緒に住みはじめてから数年。家事は分担だし料理も掃除もする。お互い好みも熟知して上手くなったと思う。
「高尾…見られてるとやりにくいんだけど」
「だってオレがする時は宮地さん見てるじゃないすか。宮地さんのエプロン姿かっこいいし」
もう見慣れたはずなのに、オレが台所に立つ度にこうやって後ろから見つめる。それはオレも同じだけど。
「宮地さんみたいにイタズラしないだけマシっすよ」
それはその通りだから、文句を言うのをやめて料理に専念することにした。
そうやって作った料理はあっという間に腹の中に消えて、高尾は嬉々としてケーキをテーブルに乗せる。定番のショートケーキ、それにコーヒー。
「いっただきまーす」
生クリームの甘さがどこか懐かしい。ケーキなんて滅多に食べないし。さほど大きいわけでもない、普通のショートケーキがなくなるのは料理よりも早かった。
「ケーキって久しぶりに食べると美味いですよね」
「ああ、なんか…美味いよな」
「次は宮地さんの誕生日っすね!」
「今度は違うケーキでも食うか」
まだ先のことまで話したりして。そんな先の話が楽しい。
「ああ、そうだ。お前に渡そうと思って」
「…何?」
「プレゼントに決まってんだろ。手ェ出せ」
「はーい」
迷うことなく差し出された右手。まあ普通はそうか。
「違う、左手だよ」
不思議そうにしながらも今度こそ差し出された左手の薬指にスッと指輪をはめた。さすがオレ、ピッタリ。
「誕生日おめでとう、和成」
「宮地さん……っ!」
高尾の目線が薬指の指輪とオレとを行き来する。
「本当にいいの…?」
「当たり前だろ、結婚はできねーけど」
「宮地さん大好きっ!」
オレの指にも同じデザインの指輪。つまりそれって、そういうことだよ。ずっと一緒にいような、なんて柄にもない約束だけど、お前を手放したくないからな。
何かが二人を分かつまで(死以外の何があるんだろうな)(死ぬまで一緒ってことっすね)