冬の足音


 すっかり暗くなった道を二人で歩く。微妙に開けられた隙間を冷たい風が吹き抜けた。

「さっむ!」

 身を竦めて叫ぶ高尾。いつもは首に巻いてるマフラーが今日はない。特に寒い日なのに。そのせいか、頬や鼻の頭は真っ赤になっている。

「お前、マフラーは?」
「今日朝急いだら忘れちゃったんすよー」
「バカか!風邪なんか引いたら轢くからな」
「平気っすよ!元気なのが取り柄なんで!」

 そう言いながらも、しきりに手に息を吹きかけている。

「高尾、手ェ出せ」

 素直に差し出された手を掴んで自分のポケットに突っ込んだ。まるでベタな恋愛ドラマ。

「へへっ」

 恥ずかしさは、高尾の嬉しそうな顔でチャラになる。もうしないけどな。今日だけ特別。照れた表情を隠そうとマフラーに顔を埋めた時、腹が鳴った。

「…腹減ったな。肉まんでも食うか?」
「オレ財布もないんすよ…」
「仕方ねーな、おごってやる」
「まじっすか!宮地さん大好き!」
「現金な奴」
「大好きなのは本当っすもん」

 付き合い始めてから気づいたこと。こいつは慣れた奴には本心を隠さない。好きなら好きと言える。

「……そうかよ」

 ストレートな感情表現にはまだ慣れないけれど。





 立ち寄ったコンビニのピザまんと肉まんをひとつずつ買う。手の平に伝わる熱と漂う匂いに食欲をそそられる。

「宮地さん肉まんっすか」
「そうだよ」
「ちょっと食べたいなー、なんて」

 オレの顔を伺うように覗き込む高尾が何だか可愛くて、ふっと笑ってしまう。

「ほら、お前も半分よこせよ」
「あざーっす!」

 手の肉まんがピザまんに変わる。肉まんとは違う匂いがまた腹の虫を誘った。

「ん、美味そう」
「いただきまーす」

 思いっきりかぶりつくと肉まんの風味がじわっと口の中に広がる。

「あー…うまっ…」

 高尾が本当に美味そうに食べるから、いつもと同じはずの肉まんが余計美味く感じた。

「美味かったっす!」

 ああ、いい笑顔。

「ねえ宮地さん、さっきのまたやって」

 再び差し出された手に指を絡めて、さっきと同じようにポケットに突っ込む。

「北海道ではすごい雪だとよ。ニュースで見た」
「雪っすか…。こっちじゃそんなに降らないもんなー」

 他愛もない会話をしながら歩いていると、あっという間に別れ道にたどり着いた。

「あ…じゃあお疲れ様です」
「送る」

 ポケットから出ていこうとした手を引き止めて短く告げると高尾の目がぱあっと輝いた。



冬の足音


(宮地さんキスもして)(調子のんな)(えー…)(外だから嫌だ)





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