どんな菓子より君が欲しい



紫原生誕祝


《もうすぐ誕生日だな。何か欲しいものはあるか?》

 そんなメールが届いたのは数日前。《赤ちんがいい》なんてベタな答えを返してから今日まで、会えると信じて楽しみにしていたのに。

「なんだよ、これ…」
「お菓子だろう、アツシ」
「そんなの見ればわかるし!」

 学校から帰ってみればそこにあったのは赤ちんの姿じゃなくて、大きなダンボールの箱だった。
 中身は大量のお菓子。京都限定のまいう棒抹茶味とか。確かにこれはこれで嬉しいし食べるけど。

「言ったのと違うじゃん」

 オレは赤ちんに会いたかったのに、赤ちんはそうじゃないんだ。
 無性に腹が立って、《赤ちんのバカ!》とだけメールを打って携帯の電源を落とした。




 それからしばらく寝ていたみたいで、目を開けると窓の外はもう真っ暗だった。秋はもう夕方でも寒くて、手探りに布団を手繰り寄せる。
 携帯の電源をつければ、数字だけ見ると引くくらいの着信通知。画面に並んだ赤ちんの名前を眺めていると、手の中の携帯がまた着信を告げた。

「…もしもし」
「敦?電源切ってただろう」
「赤ちんが悪いんだし」
「そっちに行けないのは悪いと思ってる」

 すまない、と電話の向こうで赤ちんが謝る。

「僕だって敦に会いたい。今日が平日でさえなければ会いに行ってる」

 今日は週のど真ん中、水曜日。普通に学校があって、部活もあった。それは京都も同じだってわかってる。でもさ、赤ちんなら来てくれるかなって思うじゃん。

「誕生日なんだからさ、赤ちんに会って、ぎゅってしてチューもしたかったのに」
「ああ、わかってる」
「ほんとにわかってる?ずっと会ってないじゃん。オレすげえ我慢したし」
「すまない」

 抱きしめたりキスだけじゃなくて、いっぱい喜ばせたり泣かせたりして可愛い赤ちん見ようと思ってたのに。

「次の連休には会いに行くから」

 弾かれたようにカレンダーを見ると、来週の月曜日に休日を示す赤い数字。つまり今週末は三連休だ。

「本当?」
「今度こそ本当だよ」

 誕生日の今日には会えなかったけど、休みになれば赤ちんに会える。貰ったお菓子を取っておいて一緒に食べよう。その前に会ったらまず抱きしめてキスしよう。

「来なかったら許さないし」
「行くから問題ない」

 何度も確認するオレに、赤ちんがクスッと笑ったのが聞こえた。

「絶対、絶対だからね!」
「ああ約束だ」
「じゃあ…切るよー」
「そうだ、敦」
「何ー?」

 電話を切ろうとした時に赤ちんがオレを呼んだ。

「誕生日おめでとう」




どんな菓子より君が欲しい


(休みの間は赤ちん離したくない)(敦が言うと本気に聞こえるな…)





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