関係を作りましょう



高尾の職業捏造



「絶対医者になれよ、真ちゃん」
「当然なのだよ」

 緑間が医学部へ行くと聞いたときは、少なからず驚いたけど一方ですごく納得した。人事を尽くしている緑間なら、簡単にとはいかなくても必ずなってみせるだろう。
 お互い進学した後も会わなかったわけじゃない。けれど高校の時のように、ゆっくり過ごす時間はなかった。


 そして月日はあっという間に流れ―。


 緑間は宣言どおり医者に、そしてオレは小学校の教師になった。

「さっすが真ちゃん。なれると思ってたぜ」
「人事を尽くせば当然の結果なのだよ」
「そのセリフも久々だなー」

 酒を飲みながら空いた月日を埋めようと話す。けれど、どちらも二人の関係については触れようとしなかった。
 高校の時に付き合って、そのまま進学。オレとしてはまだ恋人のつもりでいるんだけど、何年もそれらしいことをしてないオレ達は恋人だと言えるんだろうか。

「お前が教師になるとは思わなかったがな」
「そうかもなー。でも似合うだろ?」

 関係がどうであれ、こうして前のように笑って話せるならそれでもいいか。

「似合わなくはないのだよ」
「もっと素直に似合うって言えよー」

 オレの心中を知ってか知らずか、会話は進む。昔よりスムーズに感じるのは緑間が成長したのか。

「そういえばさ、真ちゃんの勤務先ってどこなん?」

 考えることをやめて問いかける。緑間が告げた名前は、オレの勤めている小学校からすぐの病院だった。会おうと思えば会いに行ける、なんて思った自分に苦笑する。

「でも真ちゃんは小児科じゃねーんだろ?」
「当たり前なのだよ」
「じゃあ、オレ風邪ひいたら真ちゃんとこ行こうっと」
「…勝手にしろ」

 それから大学のこと、オレの職場のこと、話題は尽きない。店を出る頃には、時計の針はてっぺんをとうに回っていた。




 ―数ヶ月後。

 いくら職場が近くても、医者相手じゃ時間も合わなくて、あれから一度も会わないまま。頭の中じゃ、いつ会いに行こうかなんて考えてるのに。

「せんせー!」
「ん?どうした?」

 子供特有の間延びした声に意識を向けると、その子は口を尖らせて体育倉庫を指差した。

「だめっていったのに、ゆうきくんがはいったの!」

 それを聞いて血の気が引いた。そこは体育で使う道具が乱雑に収納されていて、子供たちには危ないから決して入ってはいけないと普段から言い聞かせている。

「それ、ほんと?」

 急いで体育倉庫に向かうと、崩れた跳び箱が目に入った。

「ゆうきっ!!」

 その下に子供の身体。

「保健室の先生呼んできて!」

 教えに来てくれた女の子にそう告げて、崩れた跳び箱を退けていく。女の子は走っていった。
 何度も名前を呼びながら、下敷きになった子供を抱き上げる。嫌な鉄の臭いと濡れた感触。
 呼びに行った女の子と共に走ってきた養護教諭の指示通りに動いていると、まもなく救急車が到着した。

「オレ乗っていくんで、あとよろしくお願いします」

 オレが乗り込むと、救急車は出発する。サイレンの音が不安を煽った。
 連れていかれたのは、緑間の勤務する病院。慌ただしく処置室に運ばれていく子供を見送る。

「………っ」

 オレがちゃんと見てなかったから…。血が滲むほど唇を噛む。
 じっと処置室を見つめながら立ち尽くしていると、きつく握りしめた拳を誰かの手が包み込んだ。

「真ちゃん…?」

 緑間は何も言わず、ただ手を繋いで隣にいてくれる。その掌がオレに落ち着きと安心感を与えた。




 子供の怪我は大きかったものの、命に別状はなかった。それでも保護者の狼狽は避けられない。

「すべてオレの監督不行き届きです。すみませんでした」

 床につくくらい深く頭を下げる。

「なんで先生がついていながらこんな…っ!」
「すみませんでした!」

 許してもらえるとは思わないけど、精一杯謝ることしかオレにはできなかった。




 暗くなった道を歩けば、自然とバスケコートに足が向かう。ベンチに座って俯いていると、誰かの足が見えた。

「真ちゃん」
「やはりここだったのだよ」
「なんで…」
「お前は昔から、落ち込むとここに来るだろう」

 隣に腰掛けてオレの頭にそっと触れる。その仕種が優しくて、思わず抑えていた気持ちを吐き出した。

「オレがちゃんと見てれば…!あんな怪我することもなかったのに!!オレのせいで…!!ホークアイなんて持ってたって…使えなきゃ何の役にも立たないのに…!!」

 苛立ちと後悔がごちゃまぜになって溢れ出す。
 緑間は下手な慰めの言葉をかけることなくオレを抱き寄せ、こめかみにキスを落とした。

「……っ」

 縋り付いて情けない顔を隠せば、緑間の掌は背中に回り宥めるように撫でた。

「帰るのだよ、高尾」

 静かな声に促されて立ち上がると、自然に手が繋がれる。離さないようにぎゅっと握って、歩き出した緑間に続いた。

「ねえ、真ちゃん。なんでキス…」
「嫌だったのか」
「嫌じゃない!嫌じゃないけど…」

 オレ、自惚れてもいいのかな?まだ愛されてるって。関係は“恋人”のままだって。

「…キスしたくなったから、なのだよ」
「じゃあちゃんと唇にしろよ」

 証が欲しくてキスをねだる。人通りのない路地で唇どうしが触れ合った。

「オレは真ちゃんの恋人、だよな?」
「当たり前なのだよ。別れたことなどないだろう」




関係を作りましょう


(真ちゃんが慰めてくれたから元気出た)(単純な奴なのだよ)





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