結局こうなるんですね
それはある朝のこと。
黒子は学校に向かっていた。いつもより遅いわけでも早いわけでもない。学校までの景色もいつもと変わらないはずだった。
しかし、見慣れた人物を目にして足をとめた。
「紫原くん」
コンビニの袋を手にしたその男は目線を下に向けた。
「あー、黒ちんおはよー」
「おはようございます。珍しいですね、紫原くんがこんな時間にいるなんて」
「まいう棒の新作買いにきたんだよねー。あげないし」
「もらおうと思ってませんよ」
紫原がお菓子を食べてるのもそれをくれないのもいつものことだ。
「それより紫原くん」
黒子は紫原を見上げた。
「んー?」
「ネクタイ、曲がってますよ」
「あれ、ほんとだ。黒ちん直してよ」
オレの両手ふさがってるし、と抱えた袋を見せた。
「黒子、直してやれ」
「赤司くん。おはようございます」
「赤ちん?」
いつの間に来たのか、黒子と紫原の後ろに彼らのキャプテン、赤司が立っていた。
赤司の言うことは絶対。
感覚的にそうすりこまれた黒子は紫原に向き直った。
「仕方ないですね」
………………。
「紫原くん」
「何ー?」
「届きません。屈んでください」
チーム一の長身を誇る紫原と、一軍で最も背が低い黒子では子供と大人ほどの差がある。
紫原が屈んで、やっと衿元に手が届いた。
「彼氏のネクタイを直す彼女っていうよりお父さんのを直す子供って感じっスね」
「朝っぱらから邪魔なのだよ」
「そうっスか?黒子っち健気じゃないっスか」
「オレは紫原のことを言っているのだよ」
間違いようもないほど聞き慣れた声と口調。
紫原と話しているうちに他の部員の登校時間になったのだろう。気がつけば一人を除いて勢揃いしていた。
「黄瀬、うるさいよ」
「え、オレだけ!?緑間っちだって話してたじゃないスか」
「声が大きいのだよ」
周りが騒がしくなった。
「黒ちんまだー?疲れたし」
「直りましたよ」
「ありがとー、これあげる」
姿勢を戻した紫原は黒子の頭に軽い何かをのせた。
滑り落ちてくるそれを受け止める。
「まいう棒?」
「特別だし。お礼。黒ちん小さいから」
わしゃわしゃと髪を掻き乱すようにして頭を撫でる。
「わ、やめてください」
お礼とはいえど紫原が人にお菓子をあげることなどほとんどない。
もしかしたら雪でも降るのだろうか。思わず空を見上げたときだった。
「あ?なんだよ、全員いるじゃねぇか」
最後の一人、青峰の姿を見つけた黒子の顔に笑みが浮かんだ。
あぁ、そうか。君たちは―。
「結局こうなるんですね」
なぜか嬉しかった。
「テツ!!なに笑ってんだよ」
「なんでもありません」
「つーかよ、行かねぇの?」
「そっスよ。青峰っちがいるってことは遅刻じゃないスか?」
「うるせーよ」
「急ぐのだよ」
騒がしい。それが日常で、それが楽しい。他愛ない朝の、いつもと少し違う光景だった。