明日からもよろしく
初めて会った時から気になってた。真ちゃんの同中だし。それに、オレと同じ人種だって感じたから。だからこそ、負けたくない。
いい意味でも悪い意味でも、意識してた。意識せざるを得なかった。
いつからか、それは“恋愛感情”へと姿を変えた。
誠凜との練習試合があれば、また会えると心踊るし、マジバに行く回数も増えた。
前よりは親しくなった自信がある。親しくなればなるほど欲が出て、これじゃ足りない、もっと近くにって求めてしまう。
だからオレは、行動に出ることにした。
通り過ぎる人がオレを見る。そりゃあ秀徳の制服を着て、誠凜の校門前に立つオレは異質だろう。
意味もなく携帯を確認する。
「高尾君?」
その声に振り返ると、オレの待ち人が立っていた。
「よお、黒子」
「どうも」
「ちょっといいか?」
さすがに視線が痛い。黒子を連れて歩き出す。
「どうしたんですか、誠凜まで来るなんて」
「あー、別に大したことじゃねーんだけど」
連れ立ってマジバに入った。公園で話とかガラじゃねーし、他に行く場所も思いつかない。
「黒子、オレと付き合って」
沈黙が流れる。
緊張が顔に出ないように、ニッと笑ってみせた。
「……え?」
「お前が好きなの。とりあえず試しに一週間、とか」
ああ、何言ってんだ。格好悪い。
言ってから後悔する。あのままの距離を保ったほうが、よかったのかもしれない。
「いいですよ」
「え…?」
「いいですよ、一週間お試しに」
黒子はいつもの無表情で。真意は読み取れないけど、いいって言うならいいんだろう。
「ほんと?じゃあよろしくな!」
やばい、嬉しすぎる。たとえ一週間だけだったとしても。
毎日、誠凜の部活が終わる時間を確認して、部活帰りに迎えに行った。夜遅いから、マジバに寄ったあと、家まで送るってくらいしかできなかったけど。
手を握れば、そのまま繋いでいてくれたり、オレの話で笑ってくれたり。一つ一つに一喜一憂する自分に苦笑する。
「じゃあな、テッちゃん。また明日」
「はい、おやすみなさい」
「あ、テッちゃん」
「はい?」
ギュッ。
腕の中に、確かな体温。折れてしまうんじゃないかと、不安になるほど細い。
「充電完了!」
「………」
「悪い、嫌だった?」
「いえ……」
黒子の顔が赤く染まっているのが、暗闇でもわかった。
意識してもらえてるみたいで嬉しい、なんて口元が緩む。
「へへ、んじゃな」
今度こそ手を振って、歩き出す。足取りは軽かった。
それなのに、ふと思い出してしまう。今日は四日目。こうして恋人でいられるのは、あと三日しかない。
次の日からは、黒子の傍に少しでも長くいたくて、遠回りして帰った。
どこまで許されるのかわからない。キスしたいけど、拒まれるのが怖い。
結局、別れ際に抱きしめるのが精一杯だ。
そして、とうとう最終日がきてしまった。
遠回りするにも、ゆっくり歩くのにも限度がある。気づけば、黒子の家まで来ていた。
「テッちゃん、今日で最後だな」
「はい…」
「恋人っぽいこと、何もしてやれなくて悪い」
「いえ、楽しかったです」
この手を離せば、この関係は終わってしまう。そう思うと、いつまでも離せずにいた。
「………」
「あの、高尾君」
「ん?」
「この一週間って“お試し”なんですよね?」
「ああ、そうだな」
「じゃあ高尾君…」
黒子は一度言葉を切り、すぅっと大きく息を吸った。
「ボクと付き合ってください、明日からも」
決して大きくはない黒子の声が、やけに響いて聞こえる。
その瞳は本気だった。
「え…ほんとに?だってオレ何もしてあげてないのに」
「一緒に帰ったし、いっぱい話してくれたじゃないですか」
「それだけだろ?」
「十分です。ボクは君が好きです」
明日からも黒子は隣にいる。嬉しくて嬉しくて、思わず抱き着いた。
「嘘じゃねーよな?」
「当たり前です」
「なあ、テッちゃん」
「なんですか」
「キス、してもいい?」
「……はい」
唇が重なる。初めて触れたそこは、柔らかかった。
明日からもよろしく(末永くよろしくお願いします)(テッちゃん嫁に来る気か)(え…)(ちゃんとオレが貰ってやるよ)