何よりの祝福を



火神生誕祝


「じゃあ、行ってくるわ」
「おー…」

 半分寝ぼけながら、玄関に立って火神を見送る。

「あ、そうだ。青峰、オレ今日当直だから。飯は作ってあるから、温めて食えよ」
「おー…。…は?」

 当直?帰ってこないのかよ。よりによって今日。

「お前も早くしないと遅刻すんぞ」

 言いたいことだけ言って、火神は出勤していった。

 当直があるのは仕方ないし、オレにもある。でも今日じゃなくたっていいだろ。お前の誕生日なんだから。わざわざ当直ずらしたオレがバカみたいだ。



 帰宅して暗い部屋に明かりをつけると、ラップされた飯が目に入った。冷蔵庫には、朝飯まで用意されてる。

「飯ってこれか」

 火神の飯は一度冷めても美味い。けれど、それを一人で食うのは、なんとなく味気ない。

「…チッ」

 火神がいないと、食うのも風呂入るのも寝る時間も、すべてがいつもより早い。
 ベッドで目を閉じると、遠くで消防車のサイレンが聞こえた。



 帰ったら絶対怒ってやる。朝そう決めて、家を出た。
 帰ってドアを開けると、火神の声が出迎えた。

「おかえり、青峰」
「ああ、ただいま」
「青峰……?」

 不機嫌なのが声に出た。さすがに火神も気づいたみたいだ。

「なんで昨日当直なんだよ」
「んなもん、仕方ねーだろ!」

 理不尽なのは百も承知。もちろん、言い合いになる。

「昨日じゃなくたっていいだろーが」
「はあ?お前何言ってんだよ!」
「日付も数えられないのか、てめーは!」
「……日付?」

 火神の目がカレンダーに向いた。

「昨日…8月2日…」

 そして、オレに向き直る。

「オレの誕生日か…?」
「それ以外に何があんだよ」

 頬がみるみるうちに、真っ赤に染まっていく。

「悪い…」
「もう誕生日に当直なんて、いれんじゃねーぞ」
「おう」

 頷いた火神の肩を軽く押すと、油断していたのだろう、そのままソファに仰向けになる。
 覆いかぶさると、火神はその先を期待するかのように目を閉じた。

「……んっ、んぅ…」

 付き合い始めて十年近く。最初は下手だった息つぎも、今じゃ上手くなっていて、それにつれてキスも長くなる。
 自然と舌が絡まるのは、いつからかお約束になっていた。

「青峰…」

 唇を離せば、火神が甘えるように名前を呼んだ。応える代わりに喉に吸い付き、赤い華を咲かせる。

「青峰……」

 もう一度オレを呼んだその声は、掠れていた。
 付けたばかりの印を指でなぞり、火神の耳元に唇を寄せる。

「誕生日おめでとう、大我」


何よりの祝福を


(今名前…!)(お前も呼べよ)(だ、大輝…)(おう、なんだよ大我)





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