星よりもオレに願えよ



緑間生誕祝


 七月七日。その日は一般に七夕と呼ばれる。
 でもオレにとっては、織り姫と彦星が会うだなんて、ロマンチックな日よりむしろ…―。



「真ちゃん真ちゃん、今日はじゃんけん無しでいいぜ!」
「したとしても、漕ぐのはお前だろう」
「素直じゃねーなっ」

 そう言いながらも、緑間はすでに乗り込んでいる。

「行くぜー」

 一言かけて漕ぎ出す。かなり重いリヤカーを引くのにも慣れてきた。

「高尾。どういう風の吹き回しなのだよ」

 緑間の声に応える余裕も、少し前まではなかった。今はちゃんと会話できる。

「だって、今日は何の日だよ?」
「……七夕か?」

 まじかよ、こいつ自分の誕生日より、七夕のほうが先に思いつくのか。

「じゃあオレが、お星様の変わりに真ちゃんの願い叶えてやるよ、なーんてな」
「くだらない。人事を尽くしていれば、おのずと願いも叶うのだよ」

 言うと思った。

「…だが、どうしてもと言うなら今日はオレの近くにいろ」

 ………。
 真ちゃんがデレた!?

「仰せのままに!」

 思わず顔がにやける。嬉しかった。普段、オレばっか好きみたいで、オレばっか傍にいたいみたいで、少し寂しかったから。

 せっかくの誕生日なんだからさ、お祝いしたいじゃん?本人に自覚がなくても。



 そうこうしているうちに、学校に到着する。
 いつもは、さっさと降りて行ってしまう緑間も、今日はチャリを止めるまで待っててくれた。
 部活の時もそれは同じで。

「おい、お前らどうしたんだよ」
「どうしたって何がっすか?」
「緑間は素直だし、お前はニヤニヤしてるし。…気持ち悪い」
「宮地さーん、気持ち悪いってひどくないすかー」

 とうとうそんなことまで言われるなんて。オレ、そんなに浮かれてたかな?

「高尾、帰るのだよ」

 その声に、また口元が緩む。
 朝と同じように、後ろに緑間を乗せて、漕ぎながら声をかけた。

「なぁ、真ちゃん。本当に今日七夕だと思ってる?」
「当たり前なのだよ」
「…オレはさ、お前の誕生日一緒に祝いたいと思ってるんだけど」
「……!!覚えていたのか」
「当然だろ」

 後ろを振り向くと、緑間は俯いて真っ赤だった。

「オレだって……祝って欲しいと……思っていた……のだよ……」

 語尾にかけて小さくなる声。
 あーもう、でかい図体して、なんでこんな可愛いんだよ!!
 チャリを止めて、緑間を降ろし、物陰に連れていく。

「んっ……ふ……」

 外でキスするの嫌がるけど、お前が悪いんだぜ?

「おめでとう、真ちゃん」

 引き寄せた顔はさっきよりも真っ赤で、こいつのこんな顔見れるのはオレだけだと嬉しくなった。


星よりもオレに願えよ


(オレの願いも叶えて)(…何を言っているのだよ)





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