溢れ出すこの想い



「旭さん!着替え終わりました?帰りましょう!」
「あ、うん。ちょっと待って」

 仕度の早い西谷に急かされて仕度を急ぐ。
 部活が終わった直後だというのに、疲れていないんだろうか。そう思うほどに西谷は元気だった。

「お疲れっしたー!!」
「お疲れ様」

 例によって元気に挨拶を残した西谷に続いて外に出ると、手が差し出される。

「手、繋ぎませんか」
「はい」

 真正面から見つめながら直球で言われ、反射的に手を取った。ぎゅっと握りしめてから顔が赤くなる。

「顔赤いっすよ」
「だって…」

 見かけに反してと言うと怒るかもしれないが、その小さな身体から想像できるよりも西谷は男らしい。自分になくて欲しいものを全て持っていると東峰は感じていた。

 握りしめた小さな手が、チームの、東峰の命を繋ぐ。この手に何度も救われてきた。徹底的にブロックされて心が折れても、この手は東峰を引っ張りあげた。
 その手が、今は自分だけのものであることが嬉しくて、自然と顔が綻ぶ。

「旭さん、何笑ってるんすか」
「いや…西谷が隣にいるんだなって嬉しくて」
「当たり前じゃないですか!俺は旭さんが好きなんすから!」

 大きな声をあげて主張する西谷に、東峰は思わず辺りを見回した。

「おい、声大きいって…!」
「誰もいないっすよ!いても別にいいじゃないっすか!」

 何も気にしない西谷がうらやましくなる。自分は男同士とか、西谷には釣り合わないんじゃないかとか、いろいろ考えてしまうのに。

「旭さん、また変なこと考えてますね?」
「………」
「誰がなんて言っても気にしなくていいんすよ。勝手に、俺に釣り合わないとか考えるのは禁止ですからね!」

 考えを見透かされたかのようだ。驚いて西谷を見つめる。

「なんでわかったんだ?」
「旭さん、わかりやすいんで」

 ニカッと笑う西谷を見てると、急にキスしたくなった。屈み込んで唇を奪う。少し長めに、でも触れるだけのキス。

「……!!」

 唇を話すと、西谷は真っ赤になって硬直していた。いつも握られている主導権を握れたみたいで、気持ち良い。

「ここ、道…!!」
「えっ、あ…!」

 言われて気がつく。ついさっきまで人目を気にしていたのに。今さら焦っても、もう遅い。

「ねえ旭さん、もう一回」

 西谷が見上げてくる。その瞳には欲情が浮かんでいた。
 もう一度キスしたら抑え切れなくなりそうで、東峰は首を振る。

「家、行こうか。泊まっていくだろ?」
「…はい!」

 言葉に含まれた意味に気づいて、西谷の表情が輝く。そして、しっかりと手を繋いだまま二人は歩き出した。




溢れ出すこの想い


(旭さんってこういう時だけ肉食系っすよね)(こういう時だけって…)(普段はヘタレなのに)(うっ…)






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