キャラメル風味に隠し味



国見生誕祝

「はい、マッキーこれ持って!国見ちゃん来たら一斉に鳴らすよ!」

 急に呼び出された及川の家で、そう言って渡されたのはどう見てもクラッカーで、その日が何の日か知らなかった俺は戸惑うしかなかった。

「え、何コレ」
「今日国見ちゃんの誕生日だから!知らなかったの〜?」

 知らねえし。苛立ちまじりに呟いたそれは誰の耳にも届くことなく空気に溶けた。

「ほらほら、来たよ!」

 こういうイベントで妙にはしゃぐ及川に促されて扉が開くと同時に紐を引くと、いくつもの破裂音と火薬の匂いが部屋中に広がる。

「国見ちゃん誕生日おめでとう〜!!」
「え、うわ、何すか」

 突進した及川をヒラリとかわした国見は、一瞬俺を見てすぐに目を逸らした。何だよ、やましいことでもあんの。そういうの結構傷つくんだケド、俺。言いたいことを全て飲み込んで部屋を出ると、松川の何か察したような視線と及川の空気を読まない言葉が追いかけてきた。

「あれ〜、マッキーどこ行くの?国見ちゃんのお祝いしようよ〜」
「散歩だよ」

 する気がなくても嘘にはならない言葉を置いて、フラフラとさまよう。自分の家にも帰らないのは、及川でも松川でも、まして岩泉や金田一でもなく本人が追いかけてくるのを期待してるから。

「花巻さん」

 ほらな、来ると思ってた。振り向かずに立ち止まって不機嫌の主張。

「怒ってるんですか」
「怒らせるようなことしたワケ」
「だって…」
「…なんで言わないの」
「聞かれなかったし…」

 振り向いて、その罪悪感の浮かぶ眠そうな瞳を見つめる。

「それに俺、花巻さんの誕生日祝ってないし」
「今日みたいにみんなで祝ってくれたじゃん」
「そうじゃなくて!」

 俺の誕生日は一月。この二つ下の後輩が恋人に関係を変えたのは二月。まだ個人的に祝う関係じゃなかった。

「あの時と今じゃ関係が違うデショ」
「でも言ったら催促してるみたいじゃないすか」
「催促いいじゃん」

 むしろしてよ。恋人の誕生日知らないより催促されるほうが何倍もマシ。自然と手が伸びて国見の頬を滑った。噛みつきたくなる白い肌にはニキビひとつない。

「国見、オメデトウ」
「…ありがとうございます」
「本当は一番に言いたかった」
「すみません」

 伸ばした手を後頭部に回すと国見との距離が近づいて、察したように目を閉じる。

「来年は一番に祝ってください。俺も一番に祝うんで」

 当然デショ。その返事を込めて深いキスをした。



キャラメル風味に隠し味


(塩キャラメル買いに行くか)(おごってくださいね)(もちろんデス)






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