一匙のシナモンで約束
黒尾生誕祝 家族に祝われるのも友達に祝われるのも、もちろん嬉しい。けれど研磨に祝われるのは別格。できれば二人きりで。先月そう言っとくんだったな。
「クロ、何?」
「別になんでもねーよ」
研磨が戸惑いの声を上げるほど、後ろからギュッと抱き着いて肩口に顔を埋める。今日一日触れてなかったからその反動。誕生日だからっていろいろしてくれる俺の友達に気を使ったんだろう。
「くすぐったい…」
「んー…」
髪が首をくすぐったらしい。身じろぐ研磨を逃がさないように腕に力を込めた。より近づいた耳元に軽く噛み付く。
「研磨、俺待ってたんだけど」
「…誕生日おめでとう」
拗ねた言い方をしてみれば通じたようで、欲しかった言葉が返ってきた。
「遅えよ」
「だってサプライズとかできないし…人いっぱいいたし…」
「お前は特別なんだよ」
特別の響きか近くで聞こえる俺の声か。どちらが引き金かはわからないけれど、真っ赤になった研磨が何も言わないのを良いことに、その耳に舌を差し込んだ。
「…っ、ク、ロ…」
快感を抑えたような声が聞こえる。調子に乗って裾をめくり、素肌を撫でれば震える吐息。
「ふ……ぅ、は……っ」
プレゼントなんて何でも、むしろ無くてもいいや。お前がいてくれさえすれば。
▽
くたっともたれ掛かった研磨の髪にキスをする。
「疲れた…」
「いいだろ、誕生日くらい」
「そうじゃなくてもするくせに」
「まあな」
「クロずるい…」
尖らせた唇と非難めいた視線。
「好きだからな」
「…っ、それもずるい……」
「事実だし」
「俺も、好き…」
「それ最高のプレゼント」
ニッと笑って見せると釣られて研磨も笑った。そして俺の腕をくいっと引っ張る。
「アップルパイあるから食べよう」
「お前が食いたかっただけだろ」
うんって頷くから腰をあげた。アップルパイの香ばしい匂いが鼻腔に届く。今まで気づかなかったのが不思議なくらいだ。
「美味そう」
自分の誕生日に研磨の好物を食べるなんてのも変な話だけど、美味けりゃ関係ないしな。サクッとフォークを突き刺して口に運べば甘さとシナモンの風味が広がる。
「研磨、来年は真っ先に祝いに来いよ」
「うん」
約束。子供がするみたいに小指を絡めて、繋がった部分に口づけた。来年もその先も最初に研磨が祝ってくれるように。
一匙のシナモンで約束(そのかわり俺も真っ先に祝ってやる)(わかってる)