イタズラのふりした所有印


Happy halloween !!


「及川くん、トリックオアトリート!」
「はいはーい、飴あげるね〜!」

 朝からこれの繰り返しでそろそろ飴もなくなりそう。さすがに部活の時まで言われないと思うけど、なくなったらどうしようかな。

「おい、クソ川。入口塞いでんじゃねーよ」
「あっ、岩ちゃん。トリックオアトリート!」
「会うなりそれかよ」

 眉間にシワを寄せたまま、ポケットから飴を取り出して俺に向けて放る。

「えっ…岩ちゃんが飴持ってるなんて!誰のためなの!?」
「うるせ、さっき貰ったんだよ」
「人から貰ったものそのまま渡す〜?最低だよ!」
「もうひとつは持ってる。そんなに言うなら返せ」
「嫌でーす。これはもう俺の!でも残念でした、岩ちゃんはイタズラ決定〜!」

 紙に「Tシャツダサい!」と書いて背中に貼り付ける。すぐに剥がされちゃったけど。

「クズ川…俺は飴やったよな?なんでイタズラされなきゃなんねーんだ?」
「岩ちゃん怒りっぽいよ〜。カルシウム足りてないんじゃない?」
「お前は常識が足りてねーな」

 岩ちゃんがキレる寸前でチャイムが鳴る。

「ほらほら、授業始まるよ!」
「チッ…」
「舌打ちしないで!」

 あとは放課後の部活前だけ。なんとか飴は足りるかな。





「じゃあ俺部活行くね〜」
「頑張って下さい!」

 やっぱり放課後も囲まれて、呼びに来た岩ちゃんに従って体育館に戻る。

「岩ちゃんナイスタイミング」
「あ?何が」
「ちょうど飴なくなっちゃったんだよね〜。次言われたらイタズラだったからサ」
「死ね」
「ひどっ!」

 岩ちゃんもさ、少しは女の子達を見習って俺に優しくしてくれてもいいと思うんだよね。厳しく言ってくれるから信頼してるってのもあるけど。なんてね、岩ちゃんには絶対言ってやらない。上辺じゃなくて俺を見てくれるから大好きなんだってことも。

「今日も残って練習すんのか」
「当然デショ」
「なら俺も残る」
「なになに〜?及川サンと二人っきりになりたいって〜?」
「そうだよ」
「……っ!」

 岩ちゃん急に男前になるのやめてよ。不覚にもドキッとしちゃうからさ。熱くなった顔をバレーでごまかした。





 今日の居残りは岩ちゃんと俺だけで、岩ちゃんの思惑は達成されたことになる。

「で、どうしたの?俺と二人っきりになりたいなんて、いつもは言わないクセに」
「及川、トリックオアトリート」
「岩ちゃん部活前の俺の話聞いてなかったの?もうないんだってば〜。だいたいそんなこと言うために残ったワケ?」

 ちゃかすように言ってみたけど岩ちゃんの顔は真剣そのものだった。

「ちょっと待って、そんなに飴欲しかったの?違うよね?」
「当たり前だろ。飴なんかどうでもいい」

 怒ってるわけでもなさそうだし、かと言ってこのまま帰れそうな雰囲気でもない。いや、前言撤回。ちょっとだけ怒ってるかも。

「徹、」

 低い声が名前を呼ぶ。限られた時しか呼ばれないその呼び方は、腰に響いた。だって練習後の岩ちゃん色っぽいし。

「な、に…岩ちゃん…」

 動きはゆっくりなのに距離が縮まるのはあっという間で、鎖骨を吐息が掠めたと思えば唇が触れる。そして、すぐにわずかな痛みが走った。

「岩ちゃん…?」

 キスマークと呼ぶには少し荒々しい鬱血痕がくっきりと残る。

「イタズラ。女にデレデレしてんじゃねーよ」

 この男にも嫉妬心だとか独占欲があるんだと、今更ながら気がついた。嫉妬されるのが嬉しいなんて、相当岩ちゃんの虜みたい。

「ねえ、そんなことされると疼いちゃうんだけど」
「少しは我慢を覚えろ」

 でも岩ちゃんだって欲を隠しきれてない。ほら、今日はハロウィンだからサ。これもイタズラってことで許してよね。そんな言い訳をして目の前の唇に噛み付いた。



イタズラのふりした所有印


(なんだかんだ言ってその気だよね)(ああもう、少し黙れ)






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