いい加減黄瀬がかわいそうだ。これはオレだけの意見じゃないと思う。小堀も中村も、他の奴らだって思っているはず。早川は…わかってるのか微妙だけど。
「センパーイ!大好きっス!」
「バスケが好きなのは当たり前だろ!」
「違っ、いや、バスケももちろん好きっスけど!」
ほら、これだ。笠松のことだからはぐらかしてるわけじゃないだろう。
「じゃあ仲間か?それも当たり前だろ」
「仲間も好きっスけど!」
無理だ黄瀬、諦めろ。そう意味をこめて肩にポンと手を乗せると、黄瀬はうなだれた。
▽
「もう、どうすればいいんスか〜っ」
黄瀬がそう泣きついてきたのは、帰り道のマジバ。笠松がいないのは用事があるとかで、練習が終わったあとすぐに帰ったからだ。
「そんなのオレ達に言われても…なあ?」
小堀と中村、早川、それにオレ。この中の誰が黄瀬の恋愛の役に立つんだ?
「オレ本当に好きなんスよ」
それは見てればわかる。あれが本気じゃないなら、黄瀬の演技力は称賛に値する。困ったように顔を見合わせる小堀と中村。
「黄瀬…とりあえず一度言うのをやめてみたらどうだ?」
「時間を空けてもう一度言えば、笠松さんもわかってくれるかもしれない」
無難な答えに黄瀬はコクコクと頷いた。よし、オレも先輩としてアドバイスしてやろうじゃないか。
「“オレと笠松センパイが出会ったのは運命なんスよ!”とでも言ってやればいいじゃないか!」
「…そんなの本気で言うの、森山センパイだけだと思うっス」
せっかくアドバイスしてやったのに。きっと運命なら笠松だって気づくのに!
「森山さんに聞いたのが間違いだよ、黄瀬」
中村がため息混じりに言う。どいつもこいつも、失礼な後輩ばっかりだな。
「オレ、少しの間言うのやめてみるっス!」
黄瀬がそう宣言して、この妙な集まりはお開きになった。
▽
結論から言えば、黄瀬が笠松と距離を置くのは無理だった。数日でそわそわし始めて、次の週には元通り大好きだと叫んでいた。
「笠松センパイ!大好きっス!」
「何回もうるせーな!この期に及んでバスケ嫌いだとか言い出したらシバくぞ!」
「言ってないのにシバいてるじゃないスか!」
もう見慣れたこの光景。黄瀬もよくやるよな。マジバで相談してきたのは何だったんだ。
「なあ森山、笠松気づくと思うか?」
「…いや、無理だろ。黄瀬も厄介な奴に惚れたよな」
二人を見てため息をついたのは小堀と同時だった。黄瀬の“大好き”が正しい意味で伝わるのは、まだまだ先の話。
その主将、鈍感につき。
(ドンマイ、黄瀬)(頑張れ、黄瀬)