いい加減黄瀬がかわいそうだ。これはオレだけの意見じゃないと思う。小堀も中村も、他の奴らだって思っているはず。早川は…わかってるのか微妙だけど。

「センパーイ!大好きっス!」
「バスケが好きなのは当たり前だろ!」
「違っ、いや、バスケももちろん好きっスけど!」

 ほら、これだ。笠松のことだからはぐらかしてるわけじゃないだろう。

「じゃあ仲間か?それも当たり前だろ」
「仲間も好きっスけど!」

 無理だ黄瀬、諦めろ。そう意味をこめて肩にポンと手を乗せると、黄瀬はうなだれた。





「もう、どうすればいいんスか〜っ」

 黄瀬がそう泣きついてきたのは、帰り道のマジバ。笠松がいないのは用事があるとかで、練習が終わったあとすぐに帰ったからだ。

「そんなのオレ達に言われても…なあ?」

 小堀と中村、早川、それにオレ。この中の誰が黄瀬の恋愛の役に立つんだ?

「オレ本当に好きなんスよ」

 それは見てればわかる。あれが本気じゃないなら、黄瀬の演技力は称賛に値する。困ったように顔を見合わせる小堀と中村。

「黄瀬…とりあえず一度言うのをやめてみたらどうだ?」
「時間を空けてもう一度言えば、笠松さんもわかってくれるかもしれない」

 無難な答えに黄瀬はコクコクと頷いた。よし、オレも先輩としてアドバイスしてやろうじゃないか。

「“オレと笠松センパイが出会ったのは運命なんスよ!”とでも言ってやればいいじゃないか!」
「…そんなの本気で言うの、森山センパイだけだと思うっス」

 せっかくアドバイスしてやったのに。きっと運命なら笠松だって気づくのに!

「森山さんに聞いたのが間違いだよ、黄瀬」

 中村がため息混じりに言う。どいつもこいつも、失礼な後輩ばっかりだな。

「オレ、少しの間言うのやめてみるっス!」

 黄瀬がそう宣言して、この妙な集まりはお開きになった。





 結論から言えば、黄瀬が笠松と距離を置くのは無理だった。数日でそわそわし始めて、次の週には元通り大好きだと叫んでいた。

「笠松センパイ!大好きっス!」
「何回もうるせーな!この期に及んでバスケ嫌いだとか言い出したらシバくぞ!」
「言ってないのにシバいてるじゃないスか!」

 もう見慣れたこの光景。黄瀬もよくやるよな。マジバで相談してきたのは何だったんだ。

「なあ森山、笠松気づくと思うか?」
「…いや、無理だろ。黄瀬も厄介な奴に惚れたよな」

 二人を見てため息をついたのは小堀と同時だった。黄瀬の“大好き”が正しい意味で伝わるのは、まだまだ先の話。



その主将、鈍感につき。


(ドンマイ、黄瀬)(頑張れ、黄瀬)



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