丸まった背中と小さな画面を見つめる視線。指先は細かくボタンを押す。隣に俺がいることなんて忘れているだろう。
「研磨」
「んー…」
名前を呼んでもうわごとのような返事しか返ってこない。久しぶりのオフで朝から一緒にいられるわけで、しようと思えば何だってできるのに。研磨のことだから外出なんてしないだろうとは思ってたけど。
「研磨」
「ん、待って…」
このやり取りも何回繰り返しただろうか。…気にいらねえ。
「チッ…」
無意識に鳴らした舌打ちも研磨の耳には届かなかったみたいで虚しく消えた。持ち込んだ月バリに目を落としても、内容が頭に入ってこない。ため息をひとつついて、研磨に背を向けたまま立ち上がる。
「帰るわ。じゃーな」
「え?」
ドアに手をかけると、初めて研磨が反応した。視線が画面から俺へと移る。
「クロ…帰るの…?」
「だってお前ゲームしてるし。俺いても変わんねえだろ」
ゲームをスリープモードにして近づいてきた研磨は、俺の服の裾をつまんだ。
「ダメ、ここにいて…」
「いてもゲームしてるだろ」
「もうやめたから」
猫のような目が、上目遣いで俺をまっすぐ見つめる。ちくしょう、可愛いじゃねーか。とことん俺はこいつに甘い。
「わかった、帰んねえよ」
大きく息をついてドアから手を離せば、研磨は安心したように口元を緩めた。でもつまんだ裾は離さない。それどころかギュッと握り直して擦り寄ってくる。
「裾伸びるだろ」
「うん」
「うん、じゃねえよ。まったく…」
いつになく甘える研磨の唇を奪う。酸素も唾液も舌さえも、どっちのだかわからなくなるほど、グチャグチャに絡めて咥内を荒らした。
「…はっ…クロ……」
酸素不足か、それとも快感からか、熱に浮かされたような目。
「お前それ誘ってんの?」
下にはおばさんもおじさんもいる。それに真っ昼間だしな…。わずかな葛藤ののち、理性が打ち勝った。
「クロ?」
「…なんでもねーよ」
欲をごまかすように、髪にキスをひとつ。染めて傷みきったそれの根本はもう真っ黒だ。
「染めないのか」
「めんどくさい」
ぽつりと呟くと簡潔な返事が返ってきた。「今度俺がやってやるよ」なんて口約束をしたけど、なんだかんだこのプリン頭を気に入ってる俺は、忘れたフリして約束を破るだろう。
「…ふぁ……」
二人とも立ったまま、研磨は裾をつまんだまま、抱き合うような中途半端な体勢で欠伸をかみ殺す。ちょうど布団には日光が当たって暖かそうだ。
「研磨、」
促してベッドにダイブすると、スプリングが悲鳴をあげた。
「ちょっとクロ…」
「いいから。気持ちいいだろ、ひなたぼっこ」
寝転がって、研磨を抱き抱えて首筋に顔を埋める。猫のマーキングのように肌を擦り付ければ、研磨は身体をよじった。
「くすぐったい…」
「跡つけたら嫌がるから、匂いくらいならいいだろ」
「そんなのしなくても俺はクロのだよ…」
不意打ち。今日はやけに素直だな。夜まで我慢できっかな、俺。
「あ、そうだ。今日の夜ご飯、さんまなんだって。食べてくでしょ?」
「当然」
どうせなら泊まっていこうかと思ったけど、言い出すのはもう少しあと。
太陽の匂いとそれから俺と
(よく我慢した俺偉い)(クロ何言ってんの?)