部活後にメシに誘ったのはほんの気まぐれで。あまりにも黄瀬が喜ぶから、「奢りはしねーぞ」なんて余計な言葉を付け足した。

「わかってるっスよ!センパイが誘ってくれたのが嬉しいんス!」

 確かに、そういう関係になってからデートらしい外出はしたことがなく、食事にしても他のメンバーと一緒だったりだとか、大勢で食べることが多い。

「…そうかよ。ほら行くぞ」

 照れ隠しでぶっきらぼうになったことに、たぶん黄瀬は気づいているから腹立たしい。





「お前、本当にそれ全部食うのか?」
「もちろんっスよー」

 黄瀬がすらすらと告げたメニューを復唱する店員も少なからず驚いているように見える。いつだかの火神とまではいかないが、黄瀬の頼んだ量は常人のそれを超えていた。
 次から次へと運ばれてくる料理でテーブルの上はいっぱいだ。

「いただきまーす」

 軽く手を合わせてから食べはじめる。部活後で腹が減ってるのはオレも同じ。休むことなく箸を動かす。

「モデルのくせにそんなに食べていいのか?」

 あっという間に空の皿が増えていくのを見て、ふとそんなことを口にした。すぐに余計な質問だと気づく。

「オレ、太りにくい体質なんスよねー。それにバスケやってるし」

 海常の練習量をこなしていれば、簡単には太らない。むしろ食べなければ痩せていくはずだ。

「太りにくいは余計だ」
「本当のことなんスけど!」

 会話してる間にも皿の料理は減っている。

「なあ、これも食うか?」
「いいんスか!?」

 自分の皿に残っていた料理を差し出せば黄瀬の目が輝いた。不思議と、尻尾を激しく振る犬に見えてくる。

「お前が食べてるの見てたら、なんか腹いっぱいになった」

 それに黄瀬よりは少ないけど、普通よりは食べてるし。

「じゃあ遠慮なく!」

 美味そうに料理を食べる姿には、普段のチャラさも生意気さもなくて、普通の高校生だ。それどころか可愛いとさえ感じてしまう。
 よく考えれば黄瀬もオレも、まだまだ食べ盛りなわけで。食べて動いてバスケして、そうやって成長するんだ。選手としてはもちろん、人としても。

「すいませーん。追加で!」
「あれ、センパイやっぱり食べるんスか?」
「ああ」
「もらちゃってすいません」
「別にいいんだよ。…おい黄瀬、ついてんぞ」

 え?と慌てて探る黄瀬に、自分の頬をさして場所を教える。まったく、モデルが食べかすなんかつけてんじゃねえよ。

「とれたっスか?」
「とれたとれた」

 恥ずかしそうに聞いてくる黄瀬はやっぱり可愛くて、ここが店の中であることが残念だ。とりあえず、店を出たらキスでもしてやろうか。



思う存分好きなだけ


(…お前縮め)(急にひどいっス!)



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