「おはよ、真ちゃん」

 チャリアカーなんて誰が呼び出したんだかわからないけど、最近は恥ずかしさにも慣れてきた。今日もサドルに座って緑間を待っていたのに。

「今日はいいのだよ」
「へ?」
「…今日のラッキーアイテムが徒歩だったのだよ」

 いやいや、徒歩ってアイテムじゃねえし。かに座のラッキーアイテムは羊のぬいぐるみだったじゃん。お前ちゃんと持ってるし。

「高尾?」
「いや、徒歩がいいならオレはそれがいいけど…」

 ごまかせてないことを指摘すべきか悩んでいると、オレの視線に気づいた緑間がぬいぐるみを背に隠した。

「これは…っ、主将のラッキーアイテム、なのだよ…」

 もしかしてこいつ、バカなのかもしれない。けれどデカイ男が焦ってるのがなぜか可愛くて、思わず吹き出した。

「く…っ、あはは…!」
「何がおかしいのだよ」
「だって真ちゃんバカなんだもん」
「な…っ」

 素直にオレと歩きたいって言えばいいのに。意地なんか張らないでさ。

「それ、今日のかに座のラッキーアイテムだろ」
「…!知っていたのか」
「まあね」
「お前と、一緒に歩きたかったのだよ…」

 一瞬、心臓が止まった気がした。素直に言えばいいとは思ったけど、実際に恥じらいながら言われるとヤバい。

「し、仕方ねーな!行こうぜ!」

 今、オレ絶対変な顔してる。不自然に上ずった声がそれを証明してる。緑間真太郎、可愛すぎるだろ。





 二人揃って徒歩で登校する、そんな普通のことがみんなには異常に見えたみたいで、教室に着いたら質問攻めにあった。

「あれ壊れたのか?」
「何かあったのか?」
「壊れてないし、何もねーよ。真ちゃんがオレと歩きたかっただけ」

 冗談のように本当のことを言うと、周りは冗談だと判断したらしい。焦った緑間に名前を呼ばれる以外は、何もなかった。

「なーに、真ちゃん」
「ちょっと…来るのだよ」

 こんなことしたら逆に怪しいぜ?事実が一番嘘っぽいんだから。

「なんだよ?」

 人気のない廊下。いわゆる告白スポットに連れてきてどうするんだ。もう付き合ってるのに。

「…大勢の前で言うことじゃないのだよ」
「ああ、アレ?大丈夫だって。みんな信じてないから」

 笑いとばすと腕を掴まれた。目の前に影が落ちて、キスされたと気づくのに数秒。

「真、ちゃん…?」
「少し黙れ」

 変な語尾がつかない命令系と、キスの上手さに黙るしかなくなる。

「ん…っ、んぅ…」

 人気がないとはいえ学校でキスするなんて緑間らしくない。嫌でも変な気持ちになる。

「真ちゃ…ここ、ダメだって。移動しよ…」

 正直もうきつい。でも良い場所なんて思い当たらなくて、二人してトイレに入った。





「ん…ぁ、は…っ」

 先端を弄られる度に先走りが溢れる。それを塗り広げるように全体を扱かれて、もう限界寸前。

「しん、ちゃ…っ、そんな、急がな…で…」
「早くしないと、授業が始まる、だろう…っ…」

 授業出るつもりなの?もう無理だろ。その時、酸欠の頭にチャイムの音が届いた。ほら、無理だった。

「も、始まった、から…!」

 性急に動きつづけていた緑間の手が止まった。二人の荒い息遣いだけが響く。

「高尾、後ろを向くのだよ」
「え…」

 言われた通りにすると、後ろのつぼまりに長い指が触れた。先走りをローション代わりに、中へ入り込む。

「あ…ッ、ふ…ぅ…」

 オレを知り尽くした指は的確に感じる部分を突いて、慌てて声を押し殺した。気持ちいい、でも足りない、早く…。快感に溺れて、ここが学校だということが頭から消え去る。

「入れるぞ…っ」
「ん、ぁ…、あッ…!」

 最後までシちゃうあたり、緑間も頭のネジが緩んでたんだろう。





「初サボりおめでとー」

 けだるさの残る声でそう言えば軽く頭を叩かれた。

「いてっ。オレのせいじゃないだろー」
「…そんなことはわかっているのだよ」

 原因は学校でキスした緑間にある、はずだ。部活に支障出たら宮地さんとか主将に何か言われるな…。

「痛いのか」
「へっ?ああ、そりゃ少しはね。でも平気」
「そうか、」
「たまにはさ、こういうのもいいよね」
「もう二度としないのだよ」



一時間だけサボります。


(急いで戻るのだよ)(こんな途中から授業出るほうが変だって)



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