いつもの練習、いつもの時間。帰り道が暗いのも普段から変わらないし、皆と別れた場所も同じ。何も違うところはなかった。途中までは。
 薄暗い道で視線を感じる。職業柄、他人からの視線には慣れていたけど、同じ歩幅で足音を殺すようなその歩き方に違和感を覚えた。振り返って見ても人の姿は見当たらない。

「……?」

 背筋を走る妙な寒気には気づかないフリをしてまた歩き出す。そうすればまた同じ歩幅、殺した足音。急ぎ足になれば相手も同じく。つけられてる。それは確信に変わった。

「……っ!」

 今までにないほどの恐怖に駆られて走り出す。とにかく速く、相手が追いつけないくらい。
 走りつづけて家に飛び込んだ時には、試合後よりも息が切れていた。相手はもう振り切っていたと信じたい。





 朝になっても恐怖は消えなかった。今日も練習はある。あの時間にあの場所を通りたくなかった。

「リョータ?顔色悪ィぞ」
「あ…ショウゴ君……」
「体調不良なんて赤司にどやされんぞ」
「体調は平気っスよ、なんでもないっス」
「なんでもない顔してねーよ」

 ストーカーされてる、なんて言ったらこの恋人はどう思うだろうか。心配はかけたくないんだ。

「っ、大丈夫っスよ」
「…そうかよ」

 今日はいないかもしれないし。それに、きっとオレだけで解決できる。

 自分だけで解決すると決めたはずなのに、不安と恐怖は付き纏って、その日のプレーは精彩を欠いたものになった。

「黄瀬ェ!何やってんだよ!」
「すいませんっス!」

 身体が思ったように動かない。そんなオレをショウゴ君がじっと見ていたことにも、何かを赤司っちに言っていたことにも気づかなかった。

「もういい。黄瀬、今日は帰れ」
「でもっ…!」
「帰れ。邪魔になるだけだ」

 有無を言わせない言い方に、体育館から追い出される。何やってんだ、オレ。

「……帰るか…」

 ポジティブに考えろ。この時間ならストーカーはいないんじゃないか。まだ明るいし。





 淡い期待はすぐに打ち砕かれた。昨日と同じ分かれ道を過ぎたあたりから足音が聞こえる。鳥肌がたった。

「…っ!!」

 走れば引き離せるのに身体はここでも動かなくて、強張った体を無理やり前に進める。このまま帰ったら家を知られてしまう。そんな考えが働いて、曲がり角を逆に進んだ。
 どこまでついて来るんだろう。消えない足音が近づいて来る気がする。素直にショウゴ君に言えばよかった。

「おい、リョータ!」

 耳を疑った。ショウゴ君のことを考えていたから幻聴が聞こえたのかと思って。

「リョータ、どこ行くんだよ?」

「ショウゴ君……」

 その姿を見た瞬間に安心して、抱き着いた。ショウゴ君は何も言わずに抱きしめてくれる。

「ショウゴ君…オレ、ストーカーされてるっぽいんス…」
「ストーカー?」

 指で目元を拭われて、自分が泣いていることに気づいた。

「なんか…足音が、ずっとついて来てて……怖くて、それで…」
「もう大丈夫だから、な?」

 なだめるように背中をポンポンと叩かれる。その間ずっと耳元でショウゴ君の声が聞こえていて、オレは落ち着きを取り戻していった。

「ストーカーはまだいやがるのか?」
「わかんないっス」
「いるんなら聞いとけよ!今度こいつに近づいたら、その身体使いもんにならなくしてやるからな!」

 ストーカーの対処法としてあっているとは思えないけど、ショウゴ君が言うと迫力があって、もう大丈夫だと確信できた。

「ほら、帰るぞ」

 差し出された左手に指を絡ませた。



荒っぽい騎士


(何ですぐに言わねーんだよ)(次はちゃんと言うっスよ)



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