澪標 | ナノ

  お耳を拝借 1  

 旦那、お待ちなせぇやし。そうそう、立派な脇差しの旦那の事でっさ。どうです、ちょいと暇(いとま)の友に、あっしの草子を買って行きやせんかね。ん? 浄瑠璃や歌舞伎の方がお好みと。ああ、旦那。そりゃあつれねぇなあ、草子だって吃驚するくれぇ奥がふけんだ。語り手の言葉一つ、読み手の心一つで絢爛豪華、永代の語り種(ぐさ)に化けちまう。おうよ、何を隠そう"言ノ葉遣いの彌次郎"とはあっしの事でさぁ。
 彌次郎はほら吹きの名前だって? とんでもねぇ! 西に愚図る乳飲み子ありゃあ、行って笑い話を聞かせるし、東に腹ん中にむしゃくしゃした虫飼ってる奴がいりゃあお涙そそる人情話を教えてやるのさ。これでもあっし、語り物には滅法強い、腕に覚えがありやして。それを言うなら"舌に覚え"が? はっ!こりゃあ参った。一本取られちまった。まあそれで、空(から)読みなんざ十八番(おはこ)も十八番。あっしの右に出れる輩なんざいやしねぇ。そんなに言うなら、聞かせてみろって? おっ!旦那は話が解る男だ。立身出世の道も花吹雪って所だね。
 そうだ旦那、あっしの語りがお気に召して頂けたら、草子を…ああ!そりゃあ勿論、草子は胸を温めても、懐を寒くはしやしねぇ。そうそう、暇の友なんだ。一分銀だって小判の価値になっちまう。要は旦那のそのお心一つ。

 ではでは、しばしお耳を拝借----


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