2015/08/14::追記
ちりん、と音が鳴る度に、嬌声が一つ上がる。

「…いい音だね」
霧彦はまるで風流な光景でも眺めているかのように感慨深い面持ちで呟いた。
カスミの鈴に長い指を伸ばし、弾く。鈴の音の間隔が短くなるにつれカスミの声が高くなっていく。

「きりひこくんっ…これ、とってよ…お願い…」
膝をがくがくと震わせ、耐えられないといった表情で懇願するカスミに、霧彦は答える代わりに上体を屈め、カスミの涎にまみれた緩い口許に自らの舌を差し入れた。
「んっ…ん、んぅ…っ」
ちりんちりんと鈴は無機質に鳴り続ける。カスミの細い脚が幾度かばたばたと空を切り、やがてだらりと落ちた。

解放するように唇を離す。
霧彦の深紅の瞳が映しているものは風流なものでも何でもない。むしろ逆だ。

霧彦が見つめるカスミは度重なる絶頂に下半身を甘く痙攣させている。
蜂蜜が蕩けたような瞳は焦点が合っていない。普段の快活でしっかりとした印象はとっくに何処かへ消え失せている。
小さな金の鈴は、包皮をめくられ剥き出しになった快楽神経の塊――陰核に絹の紐を使って蝶結びで括り付けられていた。


「この紐の色は赤蘇芳と言うんだ。君によく似合ってる」
霧彦は優しく囁きながら、指で紐をなぞった。紐と粘膜が擦れる少しの刺激でさえカスミにとってはたまらない快感をもたらす。
鮮やかな色の紐が自分の一番感じる場所に結ばれ鈴まで付けられ愛おしい恋人の骨張った指に弄ばれる。その光景に半ば強制的に羞恥心と性的興奮が高まるのを感じるカスミだったが、視認を拒んで目を閉じても神経が余計に鋭敏になるばかりだった。

「…ふぁっ…あ……っ…なんでっ…なんでこんなこと……あっ…」
「触りやすいと思って……ほら」
「……っ!!」
カスミの抗議は残酷なまでの快楽で塗り替えられた。
霧彦が紐に阻まれ包皮が戻らずぷっくりと主張した箇所を親指と人差し指で摘んで上下に扱きはじめたからだった。
鈴の冷涼な音が場違いに響いて、カスミの耳まで犯す。

「それだめぇっ!…あああっ…っやだぁ…!」
「だいぶ反応がいいし、ね」
そう言うと霧彦は穏やかに微笑んだ。
おそらく年頃の女性のほとんどがその秀麗な微笑に胸を熱くときめかせるだろう。カスミもその一人には違いないのだが、カスミには知っていることがある。
霧彦の瞳の色が鮮やかにゆらめく時は情欲を隠している時だ。逃げられない。

また真っ白にさせられる。上り詰めてしまう。何度体が絶頂へ向かってもカスミは慣れることはなかった。大きな瞳を涙で溢れさせ、霧彦のシャツを必死に掴む。
「あ……ぁ………っ」
カスミの喘ぎ声が急に小さくなった。
同時に淫らにひくつく花弁から透明な蜜が噴いて、鈴と霧彦の指を濡らした。シャツから脱力した指が離れる。

霧彦くんのサディスト、また漏らした、霧彦くんのせいだ、こんなのひどい、気持ちよすぎる、怖い、このままじゃ本当にだめになる、…どうしよう、好き。
言いたいことは頭の中で山ほど散乱してるカスミだったが、言葉にして発するまでの気力がなかった。
力無く目を閉じるとあとは眠りに一直線だ。深過ぎる快楽と羞恥で体も心も消耗したカスミには抗う術もない。

「気をやり過ぎたか」
意識の遠くで霧彦の声が聞こえた。実験の考察でもしているみたい、とカスミは思ったがもう何もできなかった。







「…喜んでもらえると思ったんだけど」
居間のソファへ腰掛けた霧彦は掃除機をかけるカスミを眺めながら呟いた。
あれから死んだように眠って、起きたら何事もなかったようにエプロン姿でせこせこ働くカスミは少し、いやかなり不機嫌だった。

「怒ってるのか」
「別に!」
ちょっとそこ邪魔、とカスミに言われた霧彦は長い脚を床からソファの上へ移した。

夜中執拗に鈴を鳴らした時の淫らな姿が嘘のようだ。
試しに、と霧彦は赤蘇芳の絹紐を揺らして、ちりんと鈴を鳴らしてみた。
すると後ろ姿で掃除機をかけていたカスミの動きが急に止まった。依然として掃除機のけたたましい音は部屋中に響き渡っている。
後ろ姿からちらりと覗くカスミの小さな耳が急激に赤く染まっていくのを霧彦は見逃さなかった。
カスミに歩み寄り、掃除機のスイッチをオフにする。静寂を取り戻した部屋の中で霧彦はカスミの体を抱きすくめた。掃除機の持ち手が倒れても気にしない。

「春野って耳がいいんだね」
「…………っ…」
霧彦が後ろから覗き込むと、カスミは目を伏せて下唇を噛んでいた。熱でもあるように真っ赤だ。そのまま軽く唇を奪う。カスミは何も言わず潤んだ上目遣いで睨んでいた。
おそらく自分に向けて色々な感情を孕んでいるだろうその表情でさえ霧彦にとっては好ましいものでしかない。
霧彦は極上の微笑を浮かべ、目の前の恋人の視界に紐を垂らした。
「また使おうか、これ」
「…………やだ…」
霧彦が何度か鈴を鳴らす度にカスミが腕の中でそわそわと落ち着かなくなってきた。


「不思議だな。僕は鈴を鳴らしてるだけなのに」
「……っ…いじわる…!」


カスミが鈴の音を聞くと途端に体が疼くようになったのは、この頃からだった。


END
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