青白い頬に、そうっと手を添える。薄く開いた唇と穏やかに伏せられた瞼。私の膝の上で眠ってしまってから目覚めない彼は今は白いシーツの上。嫌な予感はとうに確信に変わっていた。早く、はやく。皆待っていますよ、起きて下さい、ねぇ。呟く言葉はゆっくりと部屋の中に分散していった。
ふと脳裏に、眠る間際の彼の柔らかい表情がちらつく。息をのむ程慈愛に満ちた面持ちは、黄色の彼といるときのそれによく似ていた。きつい言葉に相反して甘やかな声。私が絶対に貰えないものを黄色の彼は山程貰っていた。危険性と嫉妬、羨望から成る敵意。まるで駄々をこねる子供のようではないか。警告ばかりだった口を一度でも歩み寄るために使っていたら、何か変わっていたのだろうか。遅過ぎる後悔がぶわりと押し寄せる。今度会ったらごめんなさい、と言おう。そして三人で屋久島にでも行くのはどうだろうか。黄色の彼は好奇心旺盛だから、きっと喜んでくれるだろう。

「湊さん。私彼に、」

彼に向き直って気付く。自分の吐いた言葉が、どれほど絵空事だったことか。横たわった彼は何かを語ることも無く。黄色の彼もここにはいやしないのだ。自分の愚かさと悲しさに、私はただ泣くことしか出来なかった。


(3月5日の夜のこと)


20110305





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