「陽子ちん」
「…」
「陽子ちん、ほ〜ら、ちゃんと口開けてよ〜」
俺は君の全てを支配する。首輪を付けて、鎖で繋いで、全てを支配してあげる。寂しくないように。もう泣かなくていいように。アモルテンシアの甘い蜜で心も体も俺色に染めてあげる。
「首を横に振っても意味ないよ〜?旦那様はもう…」
「…」
「二度と帰ってこないんだから」
誰にも傷つけさせないよ…
「ねぇ、陽子お嬢様」
【Amortentia】
IFの世界:Fan Book Special Story 〜 Version 紫原敦(執事)
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元はと言えば、旦那様が全部悪いわけで。名家だか何だか知らないけど、娘の陽子ちんに赤司家へ嫁げと冷たく命じたのがキッカケだった。会社利益を上げる為によく知りもしない相手に嫁げって。
陽子ちんはそれから毎日泣いていて。執事である俺は、そんな陽子ちんの涙を毎日拭いては繰り返し思った。
「もう俺と陽子ちん以外、この世から全部消えてなくなっちゃえばいいのに」
「…」
「旦那様はね、麻衣お嬢様にも同じように言ってお嫁に出したんだよ。海外に売り飛ばすみたいにあっさりしててさ〜。で、その麻衣お嬢様は嫁ぐ時、俺にこう言ったんだよね〜」
“あの子を守ってあげて”
「だから俺、陽子ちんの側から離れないから」
屋敷のことなら何でも知ってるし、こんなに簡単なことならもっと早くこうすれば良かったと今更ながら思う。
旦那様は今頃どうなってるかな?腐ってカラスにつつかれてる?それとも野犬に跡形もなく食われてる?
「もう、陽子ちんを泣かせる奴は誰もいないからね?安心していいんだよ」
ジャラ…と鎖の音が響いて、陽子ちんは俯いた。
ベッドにくくりつけた鎖の先にある首輪。その大きな首輪に陽子ちんを繋いで、今は愛する主人をこうして大切に守ってる。陽子ちんが逃げようとするから繋いであげた首輪は歪で、異様で、苦しい程陽子ちんに似合ってた。
「ほ〜ら、いい子だから口開けてよ〜」
「…」
「陽子ちん」
「…」
陽子ちんの栗色で柔らかい髪も、綺麗な瞳も、重ねると甘い唇も、今はもう全部俺のもの。
それなのに、陽子ちんはあれからちっとも笑わない。食事を持ってきても全く食べようとしないし、あんまり口もきいてくれない。だからせめて水を飲ませようとこうして持ってきてるのに、それすらも全部拒否する。
「…っていうか、そんな頑(かたく)なに拒否するってことはこうされたいんだよね?それとも何?無理やりされるのがお嬢様の趣味だったわけ?」
「!」
鎖を引っ張って、無理やりこっちに引き寄せて唇を奪うと、少しだけ陽子ちんから甘い息が溢れた。
「ッ…」
「あぁ、分かった。口移しが良かったんだね?それならそうと早く言ってくれればいいのに〜」
「違…っ」
「ほら、おいで陽子ちん」
用意してきた水を口に含んで、もう一度陽子ちんに口付ける。
舌で無理やり口を開かせて、無理やり水を流し込んで。けれど、飲みきれなかった水は陽子ちんの口から溢れて流れ落ちた。
「ふ…っぅ…」
「俺、その声凄く好き〜」
「!」
「必死に我慢してる陽子ちんってさ〜、何か凄く唆(そそ)るんだよね」
「…!」
「だからほら、もっと鳴いてみせてよ〜」
ずっと陽子ちんが欲しかった。それが許されないことは最初から分かってたし、身分の違いだって理解はしてたつもり。それでも陽子ちんは俺にいつでも優しくて、俺にいつでも笑いかけてくれて。真っ直ぐでキラキラで、そんな陽子ちんが俺は大好きでどうしようもなかった。だから他人のモノになるくらいなら力づくでこうしたかった願望は、実行へ、実行は現実と化しただけの話。
誰も邪魔出来ない。誰にも邪魔させない。旦那様の次は誰が陽子ちんを奪いに来る?例え誰が来ても一人残らずヒネリつぶしてやるだけだけど。今は、陽子ちんの為に流れる真っ赤な他人の血さえ歓喜と祝福に見える。
「甘い水、もっと飲みたい?」
先程飲みきれずに伝って流れた水は陽子ちんの首筋と首輪を濡らしていて。
俺はソレを上手に舐めとって、また陽子ちんの唇を塞ぐ。
「んっ…っ」
「すんごくイイ声〜。ねぇ、もっと聞きたい。聞かせて〜」
飲ませた水はただの水じゃない。もうずっと、ここ何日も飲ませ続けてるこの水は、アモルテンシアが入った甘い水。この水をあとどれだけ飲ませたら俺を好きだって言ってくれるのかは分からないけれど。
それでも、もう逃げられないんだから時間はある。やっと手にしたずっと欲しかった人。鎖で繋いでる限り永遠に続く時間と闇。
「陽子ちん」
「…?」
「ね、大好きだよ〜」
狂い咲いて、もっと乱れて俺を求めてくれればいい。何も分からなくなって、俺以外のことなんて全部忘れてその爪で俺だけに傷を付けてほしい。俺の名前だけを呼んで、俺だけを愛して俺だけを見てほしい。そしたらきっと、この狂ったクソ世界だって少しだけ明るくなる。
そして俺は君の全てを支配する。首輪を付けて、鎖で繋いで、全てを支配してあげる。寂しくないように。もう泣かなくていいように。アモルテンシアの甘い蜜で心も体も俺色に染めてあげる。
「陽子ちん…」
お嬢様と執事。この壊れ乱れきったイケナイ主従関係が、今はとても心地いいんだよ。
「俺だけのお嬢様」
もう二度と、離さないよ。
〜fin〜
※アモルテンシア(Amortentia)=世界一強力な愛の妙薬。惚れ薬。媚薬。
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