若い女の子の薄着は嬉しいけれど、恋人の薄着は目に毒。

大地はキャミソール一枚のかなでを見下ろしながらそう思った。

身長の高い自分が視線を落とせば魅惑的な鎖骨とその下の柔らかな肌を覆う白のレースが見えるのだ。

涼しい顔をしていても、頭の中はよこしまな考えがぐるぐると回る。

ここが遊園地じゃなければどんなに良かったか。
他の奴になんか見せたくない。


「暑いですね〜」

顔をパタパタと手で扇ぎながらかなでが笑顔を向ける。
大地と二人きりでデート出来るのが嬉しいのだろう。

「確かに。少し休もうか」

近くのベンチに腰掛ける。
そばに中背の木があって、丁度二人分の陰を作った。
日が当たらないだけで随分と涼しく感じる。

大地すぐそこで買ってきた冷たいドリンクをかなでに渡した。

「はい、どうぞ。オレンジジュースで良かったかな?」

「はい!ありがとうございます」

「どういたしまして」

そんなやりとりをしながら喉を潤す。
火照った身体には丁度良い冷たさだ。

「大地先輩は何にしたんですか?」

かなでが大地のドリンクカップに視線を移す。

「アイスコーヒーだよ。飲むかい?」

相手へ差し出しすように少し傾けて問い掛ける。
かなでは慌ててブンブンと首を横に振った。

「だ、大丈夫です…!」

大地は目を丸める。
次いで、可笑しそうにクスクスと笑いはじめた。

「っふふ、そんなに拒否しなくても。あぁ、俺との間接キスは嫌だったかな?ごめんね」

考えていたことを直接言われてしまい、かなでの顔はみるみるうちに赤くなる。

「そんなんじゃ…!ないで、す…けど……っもう大地先輩!」

否定してもしなくてもこっ恥ずかしい。
真っ赤になって俯くかなでの頭を撫でながら笑いを堪える。
飲み物ひとつで慌てるのが初々しくてたまらない。
可愛くて仕方がないのだ。
そんな大地の心を知ってか知らぬか、かなでがキッと睨みを効かせた。

「笑わないでくださいっ」

膨れながら言われてもまったく効力がない。
むしろ恥ずかしさを含んだその表情はくるものがある。
しかしこれ以上からかって嫌われるわけにもいかないのでこの辺で謝ることにした。

「ごめん、ひなちゃん。意識してもらえてるのが嬉しかったんだ。この通り─許して欲しい」

大地は両手を顔の前で合わせ、ごめんと頭を下げる。
こういう時は真摯的な態度を示さないと機嫌を直してくれない可能性がある。

「もう、いいです。…私もごめんなさい」

唇を尖らせながらも許したかなでの表情を見て、大地は安堵した。
ふっと柔らかく微笑む。


「…よかった」



「あの、先輩?あんまりからかわないでください…」


肩を落としながら、困ったように話し出す。


「先輩は、その、慣れてるから、いいかもしれないけど、私はそういうの初めてで…、どうしたらいいかわからないくらい、ドキドキして…それで、」

「ストップ」


大地はかなでの口元に人差し指を立てた。

これ以上聞いていたら、否応なしに唇を奪いたくなる。

初めてのキスが公衆の面前、という思い出を彼女に残すわけにはいかない。
大地は空になったドリンクカップをダストボックスに捨てかなでの手を取った。


「先輩っ、」

「続きは観覧車の中で聞くよ」


「………」


話を遮られて眉尻を下げるかなで。
きちんと最後まで聞いて欲しかったのに。
だが大地にとってもこの場で続きを聞くわけにはいかなかった。









手を握っているのに、握り返される感触は薄い。
観覧車の列に並びながら順番を待つ。


「先輩…私の手、汗が…」

気まずくなったのか、かなでが手を離そうとする。
ジワリと汗をかいているのがわかった。
それでも離したくない。

「大丈夫だよ。あと少しだけ繋いでいたいんだ。ダメかな?」

そう言われてしまえば拒否することなんて出来なかった。

もやもやと、なんだかよくわからないものが胸を漂う。
かなでは静かにゆっくりと、大地から視線を逸らした。




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