※この話はちまっこくなってしまったかなでのお話です。
そういった設定が苦手な方はブラウザバックでお戻りください。

















魔法にかけられて




目の前にいるのは、本当に彼女なのだろうか。
眼鏡が曇っているのかと拭き直してみたけれど、景色はまったく変わらない。


「…小日向?」

「??」


名前を呼べば辺りをキョロキョロ見回しながら声の主を探している。
律はもう一度名前を呼んだ。


「小日向、か?」

「…おにぃ、ちゃ、だれ?」


首をこてん、と傾ける。
昨日まで高校生だったかなでがこんな姿になるはずがない。
だが、幼い頃から見慣れている彼女を律が見間違うはずがなかった。
5歳…にしては小さすぎる。
3歳くらいだろうか。
幼児特有のぷにぷにした体型で、言葉も覚えてたて、というくらいにまだ拙い。
かなではおぼつない足取りで律の元へ寄ってきた。


「ここ、どこ…?マ、マは?」

「………」


今にも泣きそうに目をうるうるとさせている。
律は懐かしい名で呼んでみた。


「かなで、」


ピタリとかなでの動きが止まる。
ぱちぱちと瞬きを繰り返して律を見上げた。


「おに、ちゃ、かなでのこと、しってるの?」

「あぁ、知っている」


どこで用意したのか、小さいサイズの制服を身に纏っている。
ひとまず、保護しようと片膝をついて身を屈めた瞬間、後ろから声が聞こえた。


「なぁ、かなで知らねー?」


律の眼鏡が不透明になる。
響也に見つかる前にさっさと抱き上げた。


「ってうわぁああ!何だよ、それ…嘘だろ!?」


小さなかなでに、響也も見覚えがあった。
恐る恐る、律に近付く。

「ま、まさか律、いつの間にかなでと子供…ッ!いや、そんなのあるはず…っ」

どうやら、律の隠し子説を疑っているようだ。
それも、絶好調に混乱しながら。

「落ちつけ響也」

「…そ、そうだよな、まさかな」

「黙っていて悪かった」


響也の心臓は停止した。








「…冗談だ」


しれっと言いながらあやすようにかなでの背中をぽんぽんと撫でる。

「真顔で嘘なんかつくなよバカ兄貴!」

響也で遊ぶのも楽しいが、実際問題この超常現象をどうするべきか律は悩む。


「おに、ちゃ、…とにぃ、ちゃ」


現れた響也と律を区別しようとかなでも必死らしい。
その可愛らしい仕草に思わずふにゃりと頬が緩んでしまう。
律は響也にかなでのことを話した。

「じゃあ、やっぱりコレはかなでで…、でも何でちまっこくなったかはわからない、と」

「そういうことだ」

理解しがたい事態ではあるけれど、可愛らしいかなでを眺められるのは嬉しくもあった。

「…で、いつまで抱っこしてるんだ」

「……」

「かわれよ」

「……何故だ」

「……」

律にきゅっと小さな手でしがみつくかなでの意識をこちらに向かせようと響也は一生懸命かなでの頬をぷにぷにつついた。

「おいかなで、こっち来いよ。律のトコなんかにいたら頭固くなんぞお前」


「にぃちゃ、いたい!きらいっ」


ガーン…!

響也の思惑とは裏腹にかなではぷんすか怒り出した。
律は響也につつかれた頬を優しくさすってやる。








「残念だったね、響也。女の子は優しく扱わないと、ね?」


どこから現れたのか、事情を知った大地が響也の横を颯爽と通り抜ける。

「さぁひなちゃん、おいで。俺が優しく抱きしめてあげるよ」

「やめろ!かなで、こいつは危険だ、絶対行くな!」

「失礼だな。さすがに手は出さないよ」

「当たり前だろ!!」

しかし律はかなでを離そうとしなかった。

「おに、ちゃと、にぃちゃ、と…おにぃ…ちゃ?…」

数が増えて混乱しているのか小さな手で大地の指を握る。
それだけで大地の顔はへらりと緩んだ。
面白くないのは響也だ。

(俺だってかなでを─)

「あーっ!おはな!きれい!」

突然花壇を指さして律の元を離れて行こうとする。
律は仕方なくかなでを地面に下ろした。
体温がなくなって、少し寂しくなる。
タッタッタッと急いで駆けて行く後ろ姿に響也は声をかける。

「かなで、転ぶなよ」


─ずるっ!


言ったそばからずっこけた。

「ふ、ふえぇっ…」

「…言わんこっちゃない」


そして、見事にスカートがめくれて真っ白なぱんつが皆の視界を占領した。

「……」

「………」



「み、見るな!!」

なぜか響也がかなでを隠す。
律はコホンとひとつ咳をして、大地は響也を気にせずかなでに近付いた。

「ひなちゃん、大丈夫かい?」

臥せたままの体を抱き起こして膝についた砂を払う。
少し血が滲んでいるが、たいした怪我ではなさそうだ。

「うっ、ううっ」

痛かったのだろう。
大きな粒が次から次に溢れてくる。

(可哀相に…)

大地はかなでの膝にちゅっ、とキスをした。
驚いて、目を見開く。


「…ほら、もう痛くない」


魔法でもかけたようにかなではピタリと泣き止んだ。
ハンカチを濡らして応急処置をしてから一緒に花を眺める。

さすが、と言いたいところだが、響也だけは白い目で見ていた。




「…幼女趣味」


ボソリと、小さな声で呟く。

偶然横を通ったハルにも、それは届いた。

「え?」

パタリと足を止めて目の前の光景を見る。
かなでそっくりの少女と花壇で楽しそうに戯れる大地。
呆れ果てる響也、無表情の律。


「榊先輩…ついにそんな幼女にまで…」

「え?何か言ったかい?」

「前から破廉恥だと思っていましたが、そこまでだとは思いませんでした」


誤解の真骨頂ではあるけれど、誰も否定なんかしない。
ハルは頭を抱えてかなで似の少女を見た。

「君、どこの子か知らないけど…こっちへおいで」

かなではハルの容姿が気に入ったのかキラキラと目を輝かせて駆け寄る。
家族が多い─というより手のかかる図体ばかり大きい従兄弟の─せいか子供の扱いに慣れているハルに、かなではすぐに懐いた。
きゃっきゃと笑顔を見せて色素の薄い金の髪を触っている。

「水嶋、それは小日向だ」

「部長、そんなはず…」

「マジだぜ、ハル。俺らが見間違うわけないだろ」

言われてまじまじと見てみれば確かにかなでと共通する部分が多い。
そう思ったら、なんだか急に顔が熱くなった。

「ええっ?!」

「やれやれ、わかったらひなちゃんを渡してもらおうか」





「おね、ちゃ、きれい…」


そんなことをせずとも、かなでの一言でハルの心は崩された。


「先輩!僕は、男です!」

「せんぱ?…だれ?」


大地が思わず吹き出す。
ガックリとうなだれるハルの後ろで先程からちっとも触れていない如月兄弟がさらにうなだれた。




続く




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