同じ速さで (冥加×かなで)






恋人になってからも、冥加の態度は相変わらずだった。


「ま、待ってください…!」

街を歩いていても、背の高い冥加と標準のかなでとではリーチの長さが違いすぎる。
冥加には普通の速度でもかなではついて行くのがやっとだった。

「……フン」

「すみません…」

ようやく歩調を緩めてくれた冥加にペコリと頭を下げる。

「なぜ謝る」

眉間に皺を寄せる。
怒っているわけではない。
もう癖なのだ。


「いや、な、なんとなく…?ごめんなさい」

「また謝る。…気に食わんな」


気に食わないという言葉を聞いてかなでは首を竦めた。
大会の後以来、ちっとも距離が縮まった気がしない。
自分は冥加のことが好きだけれど、冥加は自分のことを本当に好いていてくれるのだろうか。
不安ばかりが胸を埋めつくす。


「…ごめんなさい……」

なんだか寂しくなってきた。


「………」


一度俯いたら中々顔を上げられない。
何も言わない冥加。

これはデート…なのだろうか?


「……小日向」

「……」

「返事をしろ」

「…はい」


かなでの態度に大きなため息をつく。


「貴様が俺に何を求めているのか知らんが、無駄だ。諦めろ」


「…………」






















「──と、今までの俺ならば、そう言っていただろうな」


冥加はかなでの目を見ながら言った。


「顔を上げろ、小日向。お前にそんな顔をされたら……どうしていいか…わからん」


眉を潜める仕草はいつも通り。
けれど、決定的に違うものがあった。


「言いたいことがあるなら、きちんと口で言え。─わかったな」


一瞬で、かなでの表情が変わる。
音楽以外の事は不器用だと知っていたのに、すっかり忘れていた。
自分のことをなんとも思っていないわけじゃないとわかったら悩みはどこかへ吹き飛んでしまう。

「──返事は」

「はいっ!」

「…それでいい」



「あ、冥加さん」


「なんだ」


期待と不安と、少しの好奇心を持って問いかけてみる。




「同じ速さで歩けるように、手を繋いでもいいですか?」




一瞬目を見開いて、不機嫌そうにしかめ面。

それでも、

最後には腕を差し出す彼に
かなでは笑顔で右手を重ねた。




+Fin+




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