恋なんて (東金×かなで)




恋というのはやっかいだ。

特に彼女になってからは、想いを伝える前よりもより一層欲深くなる。

『お前は特別だ』

そう言われたはずなのに、ちっとも自信がない。

あの人がいるだけで周囲の女子は一気に色めき立つし、少し目を離せば山のような差し入れ。

一番見たくないのは、列まで出来てしまう告白タイムだ。
可愛い子から美人な人まで勢揃い。
もしかしたらお気に入りの人を見つけてさっさと捨てられるかもしれない。


(東金さんは、一体私のどこが好きなんだろう…?)


不安が募るばかりだった。


***



ヴァイオリンをケースから取り出し、一曲弾いてみる。

まったく、奏でられない。


「おい、なんだその音は。地味子に逆戻りか?」

後ろから声をかけられ驚いて振り返る。

「東金さん!」

「練習なら付き合ってやってもいいぜ」

東金にそう言われ、かなでは小さく首を横に振った。
普段とは違う様子の彼女に東金は目を瞠る。

「…どうかしたのか?」

かなではヴァイオリンをしまいながら、近くにあったベンチに腰かけた。
東金にも座るよう隣をトン、と叩いて促す。


「東金さん、女の子は好きですか?」

「は?なんだいきなり…」

質問の意図が読めない。

「周りにいっぱい女の子がいるのに…私の、どこを好きになってくれたんですか…?」

不安と緊張で声が震えた。

東金はその様子に押し黙る。

そんなもの、とっくに伝えたと思っていた。
だいたい、言葉に出さなくても伝わるだろうと自負していたのだ。


「小日向、」


手を伸ばし、顎を持ち上げる。
そのまま顔を近付けたら、一瞬だった。




驚いたままのかなでに東金は微笑む。


「このアホ。どこがとかじゃなくてお前だから好きになったんだ。…ったく、わざわざ言わせるな」

「…」

ボン!と音を立てたように真っ赤になったかなでに、今度は東金が目を丸めた。


「大会の時は自分からキスしてきたくせに何を今更…」

「だ、だっ…て」


クスクス笑いながらかなでの腰を引き寄せる。



「お前じゃなけりゃこんなことしないぜ。特別だって言っただろう?わかったら、安心して俺に惚れとけ」



どこまでも傲慢で、自分勝手で、俺様で─。

だけど、 その言葉ひとつで安心してしまうのだから、やはり恋はやっかいだ。


再度近付いた唇に、かなではそっと瞳を閉じた。




+Fin+




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