花火大会の一件以来、土岐はよく膝枕を求めるようになった。


「今日も、ええ?」


恋人でもないのに異性に膝枕するなんて、最初は恥ずかしくて仕方なかった。

それでも、不思議と嫌じゃない。
コクリと頷くと土岐は嬉しそうに微笑んだ。

「おおきに」


かなでの膝の上にさらさらとした髪が滑る。
肌に触れるのがくすぐったくて、慌ててスカートの裾を引っ張った。


「どないしたん?」


土岐が首を傾げる。


「なんでもないです!」


「ならええけど…」


少し瞠目して、頭を預ける。
柔らかさといい、弾力といい、どれをとっても心地好い。
ゆっくりと目を閉じると涼しい風がそよいだ。















「…土岐さん?」


静かになった土岐に眠ってしまったのかと、声をかけてみる。
少し待ってみたが返事はない。


「寝ちゃったのかな…」

あまり人と関わらない土岐に甘えられているようでなんだか嬉しい。

藤色の髪にそっと手を添えてみる。
男の人なのに、こんなに髪が綺麗だなんてずるい。
かなではうらやましく思った。


「少しなら、いいよね…?」


戸惑いがちにゆっくり撫でる。
横向きの髪がさらりと光り、指の間をなめらかに通り抜ける。

ドキドキしながらかなでは指を離した。
はぁ、と小さくため息をつく。



「なんや、もうおしまい?」


「土岐さん!?」


土岐はくるりとかなでの方へ身体を向き直した。

「残念やなぁ」

「お、起きてたんですか!?…あぁあ…もう、言ってください……」


口をパクパクさせるかなで。
恥ずかしくて仕方ないのか、落胆の色さえ浮かべる。
そんなかなでをよそににこりと笑って土岐は言葉を続けた。


「なぁ、小日向ちゃん」

「……なんですか…」





「かわりに、おっぱい吸ってもええ?」






土岐の爆弾発言にかなでの思考は停止した。



「………はい?」


聞き間違いであることを願う。


「なんや、口寂しくてな。吸っとったら落ち着くと思うねん」


真顔で言っている。
この人は、真顔で言っている。

暑さでついにやられたのだろうか。


「土岐さん、大丈夫ですか?」


かなでは呆れを通り越して心配になった。
返答次第では膝枕なんかしている場合じゃない。

「…小日向ちゃん。俺のこと、頭おかしくなったと思ってんのやろうけど…」

「…………はい」

「あれま。正直な子やねぇ」


土岐は吹き出しそうになった。


「じゃあ、飴かなんか持っとる?それで我慢するわ」


かなではポケットの中を探す。
しかし普段から持ち歩く癖はないので、あるはずもなく。


「持ってません…」

「そ。わかった。気にせんといて」



そのまま土岐は反対を向いて黙ってしまった。
相変わらず膝の上に頭があるためかなでも動けない。

それにしてもなぜ土岐はあんなことを言ったのだろう。


「ゴホッ」


「…?」

突然、土岐が咳き込み始める。

「ゴホッ、コホ、」

「土岐さん?大丈夫ですか?」

辛そうに身体を丸める姿を見て慌てて背中を撫でた。

「コホッ、いつもの、ゴホッ、気管支炎や…。っ、ケホッ、飴があれば落ち着くん、ゴホッ、やけど…」

かなでは焦った。
飴、と言われても今ここにはない。
過呼吸の時に袋が必要になるみたいに気管支炎には飴が役立つのだろうか。
身体が弱いとは聞いていたけれど、いざこんな風に直面するとどうしていいかわからない。
よりにもよってここは裏庭。
飴があるとしたら寮の中だ。
辛そうな土岐を見ていると、取りに行く時間も惜しまれる。
他の方法はないのかと考えた矢先、かなでの脳裏には一つの言葉が浮かんだ。

先程の、冗談だ。

馬鹿げているし、普通はまず考えないのだけれど、もしかしたらこうなることを予測して土岐は言ったのかもしれない。


要は、何か口に含むものがあれば良いのだろうか。



「と、土岐さん!あの、…飴じゃなくて…、別の…」

「コホッ、別、の…?」

「そっ、その…っ!例えば、胸とかでも、いいんですか…?」


真っ赤になりながら聞いた。
気管支炎がどんな病気かわからない以上、本人に師事を仰ぐしかない。
本当に辛そうなのだ。
土岐を助けるためなら、ちょっとの恥くらい、捨てられる。

「ゴホッ、何言っ…、」


「わっ、私の胸でかわりになるんだったら…!」


「そんなん、させられへんゴホッゴホッ!」


させられない、ということは、かわりになるということと同意義だと思って間違いない。

かなでは意を決した。

背中に腕を回し、ブラのホックを外す。
緩んだそれを上に押し上げて肌が空気に晒されるとぎゅっと目を閉じた。
夏服の裾を左側だけめくって土岐に差し出す。


驚いたように目を見開く土岐にかなでは顔から火が出そうだった。

「…っ、早く、してください」


まだ誰にも触られたことのない胸。
心臓が早鐘を打つ。


「ゴホッ……っ、ゴホッ、あんたって子は、もう…ケホッ!

 …ほんま、かんにんな…」



土岐は困ったように笑って、かなでの胸に唇を寄せた。



「っ…!」


ピクッと肩が揺れる。
土岐の唇がゆっくりと開き、かなでの小さな突起が口の中に含まれる。
ちゅう、という音と共にぞわりと肌が粟立った。


「土岐さ、なん…か…」


「コホ…っ、…あと、もう少し…、な……コホッ」


少しずつではあるが、咳がおさまってきた様子を見てかなではぐっと堪える。
堪えるのだが、なんともいえない感覚が身体を襲う。
擽ったいような、じれったいような、不思議な感じだ。


「ふ、……っ」


変な声が漏れそうになり急いで口を押さえた。

「んッ、…」

土岐の舌先が、突起を転がすように上下左右へと動く。
吸引の度に腰の力が抜ける。
先端だけを重点的にしゃぶられて、音を立ててきつく吸われたら、もうたまらなくなった。


「やぁっ、土岐さん…!」


慌てて土岐の口から身体を離す。
プツンと赤く起立した先端が濡れて、てらてらと光る。
恥ずかしさが押し寄せてすぐに服を下ろした。
真っ赤になった顔がおさまらない。

「ご、ごめんなさい…、あのっ、」

「いや、ええんよ。お陰でおさまったし…。小日向ちゃん、無理させてごめんな?」


土岐は身体を起こしてかなでの頭を撫でた。

土岐の言う通り、咳がおさまって安堵する。
思うところは多々あるが、結果的に役に立てたなら幸いだ。


「いえ、…土岐さんこそ、身体大丈夫ですか?」


「あぁ、おかげで元気よ。この通り」


「ならよかっ………」


土岐が指を差した場所に視線を落とした瞬間、かなでは一気に青ざめた。


「乳首は甘いし反応は可愛いし…」


黙された、と思った。
しかしもう遅い。
気がついたら、


「小日向ちゃんのおっぱい、もう一回吸うてもええ?」



赤いイチゴはもう土岐の口の中だった。


(─ほな、いただきます)




確信犯にご注意を

100413

……………………
ひどい話ですね…。
自分で書いておいてなんですが、読み返して笑いました。ないな、コレ(笑)
「胸」じゃなくて「おっぱい」呼びにしたのはそっちの方が恥ずかしいからです。(…)
もし土岐がおっぱいフェチだったら…と思って出来た話。
おっぱいというか乳首フェチっぽい。

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