―成留―

 あれから、朱鳥先輩は前のように、よく笑う明るい先輩になった。

「成留、亜良。あなた達の作品を部誌に載せるから、ペンネーム考えといてね。」
 ある晴れた日。唐突に言われて、戸惑うなって言う方が無理だよね。
「朱鳥先輩は、ペンネームなんですか?」
「あすかよ。」
「え?」
「飛鳥。飛ぶ鳥って書く方の飛鳥、よ。
うちの字って珍しいでしょ?朱(あか)い鳥って書いて
あすかだもんねぇ。だから、漢字だけ変えたのよ。」

「でも、あすかだったら、明日香、明日花…。たくさんあるじゃないですか。」
「明日の香とか、明日の花って言うガラじゃないでしょ。うち。」
 ちょっと反応に困っていると、亜良ちゃんが
「ワたし、アレンがいいで、す。」
「アレン?」
 ふむ、とちょっと考え込んで、朱鳥先輩は紙に幾つか漢字を書いた。

「これがいいです。」
 亜良ちゃんが指さしたのは、“明連”という漢字だった。
「明るく、つらなる、ってヨムんですよ、ね?」
「うん。」
「ワたし、そんなひとに、なりた、いんです。」
 朱鳥先輩はにっこりして、登録用紙に“明連”と書きつけた。

「あたしは…。翌檜がいいです。」
「あすなろ?」
「明日には檜(ひのき)になろう!っていう木の名前なんですよ。
井塚(いつか)じゃなくて、明日!っていうところに、いつも憧れてたんです。」
 朱鳥先輩は少し丁寧に“翌檜”と書いた。
 
あたしは、朱鳥先輩が“朱い鳥”として、
籠に閉じ込められるんじゃなくて、“飛ぶ鳥”として
自由に過ごしたい、という願いも込められてるんじゃないかって思った。
事実、朱鳥先輩の描く世界はエネルギッシュで、少し寂しげな世界だ。
 
―第五話 「朱い鳥籠」完―
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