少し軋む床を踏みつけながら、うちは本家の中へと入った。
純和風な家は今となっては浮いている。うちも、ベッドや絨毯に憧れた。
「ごめんなさいねぇ〜。お父さん、今はぁ、お仕事なのぉ。」
相変わらず、ねとねとにちゃにちゃした喋り方。
うちは少し苛立ちを隠せなかった。
ナチュラルメイクとはかけ離れた悪趣味のケバイメーク。
真っ赤な口紅をぬたぬた塗りたくった唇は人と言うよりも新種の生物だった。
「構いませんけど。……。雄三当主によろしくお伝えください。」
「あぁん、待ってぇ〜。」
「……。なにか。」
「ワタシ達ぃ、久しぶりに会ったじゃなぁぃ。話しましょぉよぉ。」
強制的にうちが使っていた部屋へ連行される。踏みとどまろうとしたが、
どこからかやってきたボディーガード風の男たちにかかえられてそれも叶わなかった。
「懐かしいわねぇ、あのときは幸せだった……。
朱鳥ちゃんもいて、幸せな家族だった。
涼君がそれを奪っていったけど、もうちょっとしたら
またその日々が返ってくるのねぇ……。」
意味がわかりにくいうえに、うちはそれ以上に
涼兄ちゃんが貶された事が許せなかった。
「涼兄ちゃんは、知笑さんより、うちのことを思ってくれてました。」
「あぁぁ!!」
知笑さんはいきなり大声をあげた。真っ赤な生物がうごめいて声を出す様は、
見ていて気持ちのいいものではなく、逆に吐き気をもよおすものだった。
「“うち”っていいましたか?“私”って言うように言いましたよね?
“わたくし”!!わ・た・く・し!!」
しつこくわたくしと呼べ、と要求してくる。でもうちはそんな事聞かない。
「うちはうちです。」
「わたくし!!」
絶対いやだ。
「あぁ、前はきちんと、わたくしって言われてたのに。
涼君と行くって言われた時、お止めするべきだったのよ!
もどる