太陽は真上から照りつける。入道雲とか、ひまわりとか、ここは本当に夏っぽい。庭の木には蝉が何匹か集まって、うるさく鳴いていた。
「何それ」
居間にいる少年に声をかけた。ポリポリと何か食べている。木目調の古い机を覗くと、広げたティッシュの上にひまわりの種が落ちていた。
私は驚いて、庭のひまわりを見てから、もう一度それを見た。
「失礼な、ちゃんと食べれるやつだよ」
彼は上目遣いで睨みながら、机の下にあったらしい袋を差し出した。白いパッケージの中には、たくさんの種が入っていた。
「アンタも食べる?」
「いい。まずそう」
「ひまわり畑にいるような気分になれるよ」
生意気なのか、子供なのか。よくわからないコイツは、叔母さんの息子だ。私の1つ下の中学3年生。
「どうせ、固いご飯みたいな味だよ」
「食べたことあるんじゃん」
「昔ね。ここで食べた」
「あれを?」
彼は、庭のひまわりの茶色を指差す。ここから見るときれいなのに、触ると気持ち悪いんだよなあ。
「まさか。チョコのだよ」
私は背を向けて縁側に座った。扇風機がこっちを向いて、風鈴が鳴る。
「……ねえ、みんなは?」
「子供たちと遊園地。知らなかったの?」
「なんだよそれ! 知らないし」
ここは私の家で、みんなというのは集まった親戚のことだ。叔母さん叔父さんにとってはここが実家で、休みに来たのだけど、子供には関係ない。せっかくの夏休み、おばあちゃんちでじっとなどしてられないのだ。
「受験勉強しろってことでしょ」
「やーめた。俺の時間だもん」
私の心配を無視してノートを閉じ、その場を去った。少し経ってから、裸足でぺたぺたと音を立てて戻ってくるのだ。水っぽいスイカの乗ったお皿を抱えている。
「夏休みはこれするって決めてんだ」
そういえば去年もそんなことしてたような気がする。こうやって、縁側に2人で座って。私が5月に植えたひまわりは、こちらを向いていた。
「……いいね。アンタは余裕で」
その要領の良さとか、ちやほやされる容姿とか、恵まれている環境に嫉妬していた。少しぐらい分けてくれてもいいのに。
「……ひまわりの花言葉知ってる?」
「え?」
「あなたは素晴らしい!」
唐突に、持ってきた塩を突き出す。私は何も言えずにそれを受け取った。
「俺もだけどね!」
また向き直って無邪気にスイカを食べる彼を見たら、なんだか笑いが込み上げてきた。
「……ナルシスト」
ひまわりのもう1つの花言葉を、私はぼんやりと思い出していた。
0807??