僕たちに隕石が落ちてきたとき、僕はサカイに頼ってばかりいた。一日中何にもしないでいると、僕は誰だったのかわからなくなる。世界にひとりだけみたい。みんな死んだのかな。たらたらと鼻水と涙を流すのは、お腹が減るだけだと気付いて、サカイを呼んだ。
「外出てこい。寝てばっかいると、腐って死ぬよ」
サカイの手にはビニール袋がぶら下がってる。僕の好きなサイダーと、いちごのチョコレート、それとなぜか、抹茶のアイスクリームが2個入っていた。ああ、彼女が好きだったやつか。
「抹茶は食べれないよ」
「知ってる。俺もあんまり好きじゃないけど、いいじゃん。たまには」
たまにはって、僕は一度しか食べたことがない。彼女が食べてたアイスをねだって、口に入れてくれたときだ。飲み込んだ瞬間、嫌いだと脳が言っていた。彼女は僕の顔を見て、ごめんと言った。僕も心の中でごめんと言った。
「溶けるよ」
サカイは僕ほど嫌いじゃないから、フタを開けて食べ始めていた。緑色したそれに、僕は躊躇っていた。なんでこんな色してるんだろう。いちごの方が僕は好きだ。それでも彼女は、ぱくぱくと美味しそうに食べていたのを覚えている。僕は、どうして食べられないんだと悔しくなった。
「……なんで食べなくちゃいけないの」
静かな部屋が、抹茶の匂いに染まっていく。彼女の強烈な印象が、浮かび上がっては消えた。
「なんで死んだの。僕はどうすればいいの、なにを、すれば」
「いいから食べろ。そしたら、死なないから」
サカイに怒られて、僕はもう一度アイスを手に取った。側面がじんわりと溶けて、薄い緑色が円を描いている。僕の熱が、アイスを溶かしている。
僕はゆっくりと口に入れた。サカイは、僕のことをじっと見ていた。どんな顔するかなって? そんなの決まってるじゃないか。
「……にがい」
サカイは苦笑した。
「はっ、俺も。でも不味くはないと思う」
「うん、たぶん」
「たぶんってなんだよ」
「もう無理。サカイにあげる」
「お前なあ……」
僕は、勝手にサイダーを開けて勢いよく飲んだ。舌がびっくりしてパチパチ鳴って、さっきまで眠っていた脳がすっきりした。僕を気持ち良くさせた炭酸は、すぐに空気になって消える。喉には、まだ抹茶がじわりと残っていた。なんだこれ、にがい。取れない。
「にがいよ、サカイ」
一生消えない気がした。