木漏れ日はだんだん大きくなり、深かった緑から土の色が強くなった。太い幹の木や、怪しい色の花も少なくなってきた。どうやらこの向きで正解だったらしい。もしくは、どこからでも出られたのかもしれない。
 蔦が覆ったトンネルを抜けて、日光を浴びる。いきなり、世界が変わったのは気のせいだろうか。眩しくて細めた目をゆっくりと開けると、整然とした街並みが続いていた。ただし、建物は10階建てぐらいのビルが1つぽつんと建っているだけで、他はない。灰色のタイルを敷き詰めた道路と白い街灯があちこちにあるだけだ。僕の前に伸びている道は、灰色のビルにつながっていた。僕は無性に、そのビルに惹かれた。

「夢からはまだ出られないみたいですね」

 うっとりしていると、うさぎの毛が足に触れて僕は正気に戻った。こんな冷たい声で寂しがり屋というのは、やはり違和感がする。

「あそこへ行こう」
「はい」

 うさぎもそのビルに興味があるようで、耳をぴょこぴょこさせた。僕が踏み出すとすぐに走り出して、横にぴったりとついてきた。
 街には生活感のするものは何ひとつなく、見えない所まで続いていた。交差点から横に伸びた道以外にも、細い路地なども混じっていて、よく見れば遠くに踏切も線路もある。現実的で懐かしい感じがした。遮るものがないせいで、やたらと光が眩しい。
 僕はまた見とれて、うさぎが遅れているのにやっと気付いた。立ち止まって、うさぎを待つ。

「君に聞きたいことができたんだけど、いいか?」

 うさぎの足が追いついて、僕はまたビルに向かって歩き出した。今度はゆっくりと、うさぎが話せる余裕を持てるように行く。

「君は最初、この世界に自分しかいないと言ったが、ここに最初からいたのか?」
「よく覚えていますね」
「記憶力だけはいいんだ」

 僕は自慢げに答えたが、すぐに何かおかしいと感じた。矛盾している? だって僕は、今日の記憶を思い出せないでいるのに。なぜそんなことを口走ったのか。
 頭を回していると、うさぎが話し出した。

「前からうさぎとして住んでいたのかもしれませんが、人間的な機能が始まったのは、あなたが落ちてきた時からです。世界に私とあなたしかいないと言ったのは、直感です。確証はありません」
「……それ以前の記憶はないと」
「そう、ですね……」

 うさぎはなぜか言葉を濁した。それからしばらく、黙って考えながら僕の後ろについている。

 近付いてきたビルは近代的で、ツヤツヤした窓に今までいた森を映し出している。伝統というような言葉は到底似合わない、無機質で立派なビル。
 正面の自動ドアで、当然のように中に入る。広いロビーの蛍光灯は全て点けられていて、中央に白い螺旋階段があった。他にあるのは、机やソファや観葉植物で、あるべきはずのエレベーターやロビーから続く部屋はない。そして、僕はふと思った。他の障害は排除して、僕達を出口へと導いているんだと。

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