瞬間的に、いろんな写真がばらまかれたようで、空しくなる。いろんなと言ったが、僕はそのシーンの詳細をそれぞれ書き出せるほど、頭に焼き付いていた。ひらひら、と下の方へ吸い込まれていく。その先に何があるなんて思いもしない。僕の脳内は、その写真達のせいで大量の情報で溢れかえっていたんだ。



 落ちた場所は森の中で、浅い原っぱに生まれたてのように丸くなって寝ていた。どうやら、僕の知らない場所のようだった。こんなに綺麗に茂った森は、僕の街にはなかったはずだ。自然公園じゃ再現できない、野性的で不思議な感覚を持っていた。

「誰かいるんだろ。出て来いよ」

 意味もなく、独り言になりかねないことを叫ぶ。気配など感じた訳じゃないが、僕は確信していた。物語のお決まり、というやつだ。

「はいはい。いますよ」

 ニュースで聞くモザイクされた声がして、恐怖感に襲われた。聞こえた方を見上げて、もう一度たまげた。白いうさぎが、木の上に座っていたのだ。
 うさぎは、僕の位置を確認すると、幹を滑り降りて近くまで来た。ふわふわの毛を生やしたうさぎは、少し大きい気がしたが、確かにうさぎだった。

「うさぎ、しかいないのか?」
「いませんね」

 赤い目が僕に向けられ、寒気がするモザイク声で答えた。やはり、うさぎからのものだ。僅かな口の動きは、母音に反していて、中に声帯の機械が隠してあるだけなんじゃないかと感じた。

「ここは、どこだ」
「私にもわかりません。架空の世界、と呼べるならそうだと思いますが」
「架空? なぜそうなるんだ」
「喋るうさぎはいないでしょう」

 そりゃあまあ、確かにそうなのだけど。別にうさぎが喋ってもいいじゃないか、と一瞬考えた僕が、ひどく空想的で恥ずかしくなる。俺が黙っていると、うさぎは後ろ足で立って、さらに大きく見せた。

「あなたはどうして現実の世界にいないのですか」
「……わからない。さっきまで普通の生活を送ってたはずなんだ」
「普通?」
「うん。朝起きて、会社に行った。そこからは、よく覚えてない」

 うさぎは脱力したように耳を垂らした。表情がない分、耳で表現してくれるらしい。

「あなたは、現実から逃げてきたのではないでしょうか」
「逃げる? どうしてそうなるんだ」
「普通の人間が、架空の世界にいることはありません」
「君は人間じゃないのに、何でそんなことが言えるんだ」
「さあ。でも私は、人間の言葉が喋れますから、私も人間の心がわかるのかもしれません」

 うさぎの言うことは、随分と正当なものに聞こえた。喋り方をとっても、うさぎは僕よりずっと賢明であるとわかる。よって、僕は対抗できない。

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