「どんなことをしたんだ」
「……俺が直接動いたのはあまりなくて、わからないですけど、たぶん典型的なものです」
「どれくらいそれを?」
「去年の秋から冬休みが始まるまで、でしたね」
教師の目が僅かに揺れたような気がした。
「理由は」
「…………特に」
「そうか」
教師はいつも通りの落ち着いた表情で、紅茶を飲んでいた。話を聞いてないのではない。この人の頭の中には、しっかりと俺の情報が吸収されているのだ。それゆえ俺は、自分の幼稚さを曝されているような気がしてたまらなくなる。
「先生は、俺のことを怒らないんですか」
優等生の面が、ガラガラと崩れ落ちていくような気がして、顔を伏せた。彼女のあの顔を忘れることはできない。えぐるように刺す痛みは、もう一生とれることはないんだろう。
「僕は、どうすることもできない。僕が君を咎めても、彼女は許さないだろう。僕はただの教師だ」
その言葉は、どうしても、俺より彼女をよく知っている人物のものに聞こえてしまって、大きく溜め息をついた。
ここ最近、なにもやる気がしない。無理して勉強して、気をゆるめずに友達と付き合って、笑顔をベタベタに貼り付けて、なんの意味があるのか。
「あー、もう……ね。本当にガキですね俺」
彼女の泣いた顔の次に思い浮かべるのは、中学のときの友達だった。親友という恥ずかしい格付けをしても平気なくらい仲がよかった。それなのに、いつからだったろう。アイツが苛められるようになったのは。それに気付かないフリをするようになったのは。
卒業式の日にアイツは、俺を嘲笑って去った。
『お前は本当に学校が好きだな』
それはナイフのような鋭さで、一番だと思っていた友情は呆気なく切れた。俺は俺を選んだ。昔から、なにも変わっていない。
「……先生。俺は友人をたくさん作りながら、ひとりでいる彼女の強さに憧れていたんです」
「…………」
「俺は、彼女と親しくなりたかったんです」
教室でひとりで本を読む姿が、羨ましくも憎かった。嫌われているのに、ついていこうとする姿が無様だった。HRが終わってすぐに教室を出るのが、むかついた。
「でも、誰かを苛めてみたいという気持ちは、確かにあったんですよ」