かなちゃんの髪がなびいてピアスが見え隠れする。半年ぶりの再会の嬉しさと、変わってないことの安堵に胸がいっぱいになった。

「……で、どこいくの?」
「ひかりんち」
「えっ」
「こんな時間じゃもう帰れる訳ねえじゃん。泊まる」
「はあ。どうせ、そのつもりで来たんでしょ……」

 一旦お母さんに連絡を入れると、慌てた様子で「片付けるからちょっと時間潰してきて!」と返ってきた。かなちゃんは少し不良っぽい雰囲気があるけれど、小学生からの付き合いだし、行儀も悪くないので、お母さんは気に入ってるみたいだ。
 時間潰しのために、私たちは少し歩いたところにあるバスのロータリーへ向かった。チカチカと自動販売機に照らされているベンチに、バスを待つ訳でもないのに座った。辺りの人通りは少なく、バスの運転手が1人、缶コーヒーを飲み干しているのが見えるだけだ。
 かなちゃんはそれを見て喉が渇いたらしく、缶コーヒーを買った。口に含んでフッと息を漏らしたあと、言った。

「アイツさあ、結構いい奴そうだな」
「あ、ヤザキ? うん、いいやつだよ。すごく!」
「メールの回数減ったからどうしかしたのかと思ったけど、ひかり、そっちの学校に馴染めたんだろ」
「……うん、おかげさまで」

 編入してから数ヶ月、私は休み時間にケータイばかり触っていたことを思い出す。それはメールしてるときもあれば、メールしてるフリのときもあった。その間ずっと、かなちゃんは他愛のない話相手の一人になってくれていた。

 かなちゃんはもう一度コーヒーを口に運ぶと、気付いたように立ち上がってミルクティーを買って私にくれた。

「ふふ」
「なに。ありがとうだろ?」
「ありがとう」
「よし」

 ミルクティーは熱いけど、確かに甘かった。両手を暖めながら、ふうと息を吐くとわずかに白く残って消えた。

「そういえば、唯は来てないの?」
「あー。まあ、置いてきた」
「ま、まさかなにも言わずに来たの!? 勝手に?」
「その通りだな」
「……唯に電話して」

 唯は私とかなちゃんの友達で、私たちはいつも3人一緒だった。かなちゃんが無言で消えたのなら、絶対探してるだろう。唯を置いて私に会いに行ったなんて知ったら、絶対怒るんだろうけど。

「……んなこと言ったって、すでに着信が48件」
「ああ……! 今すぐ電話!」
「嫌だ。アイツのことだから深夜バスで連れ戻しに来るのが目に見えてる。時間かけてここに来た意味がなくなんだよ」

 でも、と言いかけて、かなちゃんの携帯へ伸ばした手を掴まれる。思いのほか強くて、言葉が詰まった。

「寂しかったんだ、俺は、ひかりがいなくて」
「かなちゃん?」
「うるさい。黙ってろ」

 掴まれた手はゆっくりと下がり、そのまま握られていた。かなちゃんの手は、私のより冷たかった。伏せられた顔に、有無を言わせぬ雰囲気が伝ってきて、私は仰せの通り黙ることにした。

 見上げた黒い空に思い浮かぶ1つのメール。言葉にしたら、きっとかなちゃんは怒るだろうなと心の中で笑った。

〈そっちの学校にもひかりのことわかってくれる奴はいるんだよ。絶対。だからめげんな〉

 絶対的な安心感に包まれて、かなちゃんとしばらくベンチに座っていた。打ち上げにはもちろん、行けなかった。

100909

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -