大声を出せば、誰かが気が付いてくれるように、大声出してれば、何も聞こえなくて、それだけで充分だった。
 自分が先頭に立っていないと落ち着かない。誰かについていくなんて、こちらから願い下げだ。
 つまり、絶対に落ちない城に俺はいる。

「真鍋君、パン買ってきたよー」
「サンキュー。本当いい奴だよな、また頼むよ」
「真鍋。なー、ここ教えてくんない」
「ああ、いいよ」

 高校に入ってすぐ、俺は絶対落ちない場所を見つけ出していた。不良でも、そのパシリでもなく、うるさいムードメーカーでもない。下級でのたまわっているようじゃ、いつか落ちても這い上がれない。いちばん上だ。全てを兼ね備えていればいい、どんな奴も逆らえない人間でいれば。

「やばい点数上がった!」
「あたし今回頑張ったんだあ」
「真鍋に教えてもらったからじゃない?」

 本当にそうなんだろうか。結局はみんな自分の手柄なんだろ、と卑屈に笑った。どうやら俺の笑顔は、他人には可愛く映っているみたいだ。

「真鍋」

 教師が名前を呼ぶ。まだ若いが、授業は完璧で無口な奴。エリート街道まっしぐらって感じだ。冷徹な目は、他の教師みたいに俺を見ない。

「お疲れ様」

 表情もなしに言われた言葉に、ぐらりと足元が揺れた。渡された解答用紙を見ると、見事な満点。それを確認しただけで折り畳み、手を下ろした。

「いえ。疲れてません」
「そう。……ああ、真鍋」
「なんですか」
「勉強したくなくなったら来なさい」

 何を言い出すんだと思えば、教師はすでに次の生徒を呼んでいた。勉強したくなくなったら、とはどういう意味だろう。俺はもう一度、解答用紙を広げて点数を確認した。国語は得意だ。しかし、満点というのは少し気持ち悪いなと俺は後悔した。
 席に戻ってくると、一気に睡魔が襲ってくる。点数にホッとしたのか、疲れているのか。どっちにしても、教師に見透かされている気がして、背筋を伸ばした。

 放課後には3年との約束が待っている。今日の朝やってきたバスケ部の主将が一方的に取り付けたものなんだけど、まあ、内容もそれなりに感づいていた。ケンカの腕は学校一だとか、クラスの奴が言っていた。
 タイマンって中学生かっての。バカらしく感じたものの、ここで負けてはいけない。俺を好かない人間は従わせるしかないのだ。

 連れてきたのは二人だけだった。主将のきりっとした目が俺を捉える。180センチはある身長、そこまでがっしりしない体格に、俺はバスケだけやってりゃいいのにと思った。

「場所はB棟裏の駐輪場なんてどうでしょう」
「ああ。邪魔が来なくていいだろう」

 人が来ない場所という意見が一致して、安堵した。仮にも俺は優等生であって、不良の中に括られるのは困る。怖いという印象は、教師や女子に影響を与えるからな。

 校庭から部活の掛け声が響いて、ここまで届く。そのせいで、目の前の男が何言っているのかわからなかった。調子乗ってんじゃねえ、とか。後悔しても知らねえぞ、かもしれない。だとしたら、半分くらい当たっている。
 俺はいつもの微笑を見せ、それは合図になった。

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