俺は考えていた。言葉がぐるぐる回って離れない。かれこれもう1時間くらいか。そろそろ集中しなきゃいけない。思考、早く止まれ。

 俺は立ち上がってビブスを着た。体育館にボールが垂直に上がる。取ったのはもちろん俺のチーム。なんてったって奴は学年一の長身だ。
 敵のディフェンスを交わし、次々とパスが通っていく。俺はボールを追いかけ走った。マークから逃げてパスを受ける。
 そう、そこ。絶好のポジション。こんなチャンスにミスは許されない。俺はゴールを見つめ、腕を上げた。

――何のために部活やってるの?

 誰かがそっと囁く。手がブレた。
 ボールはガシャンと音を立て、無惨にもリングからこぼれ落ちた。ぼうっとしていると、俺の相方が拾い、その長身で軽々とダンクを決めた。
 ベンチから歓声と罵声が聞こえる。何やってんだっけ、俺は。

「何やってんだ!」

 顧問は試合を中断させ、俺を睨みつけた。心の中でわからないですと言ってやる。どうやら始まって早々に交代させられるみたいだ。

「どうしたんだよ」

 そんな俺を心配してか、深津が寄ってきた。さっきシュートを決めた長身の奴。
 俺は質問を無視して、奴に聞く。

「お前って、やっぱりプロとか目指してんの」

 深津は少し驚いて、頭を掻いた。それでも目を離さずに、冷静に答える。

「んー、まあ……」

 俺は、そうかと言ってコートから出た。深津は必死に俺を呼んでいたが、無視してビブスを脱いだ。代わりにやる気満々の1年が入っていく。けっこう期待のルーキーらしい。でもそんなこと、今はどうでもよかった。
 深津の答えが羨ましかった。



 試合が終わっても、俺の集中力が戻ることはなかった。水道場へ行って、顔を洗う。すると、長い影が視界に伸びてきた。

「なんで代わったりなんかすんだよ」
「……わかんなくなったから」
「なにが」
「部活やる理由」

 水道を止めて生暖かいタオルで顔を拭く。深津は心配そうな顔して俺を眺めていた。そう、その当たり前さが癪に障る。

「俺は別にプロになりたい訳じゃないし、ていうかなれないけど……だから」
「だからなんだよ」
「だから! いいんだよもうバスケなんて! 部活なんて無駄なんだよ! 意味ねーんだよ!」

 パンッと何かが弾けて、俺は水道場に尻餅をした。頬がヒリヒリする。見上げると拳と深津のキレた顔。俺はびっくりして思考が止まった。

「俺は確かにプロになりたいけど……、でも今はお前とバスケしたくて部活やってんだよ!」

 深津の顔は逆光でさらに怖く見える。日陰をつくれるほどの長身が、羨ましくて仕方なかった。中2の夏、俺より低かった背がぐんと伸びてきた時から、ずっと差を感じていた。コイツはバスケのために生まれたんだと思っていた。

「……そんな理由で部活やっちゃいけねえのかよ」

 深津はサイボーグでもなんでもない。ただの俺の友達、いやライバルだった。

「わかったよ。やってやるよ」

 俺はもう1回顔を拭いて、体育館へ向かう。ボロくて蒸し暑い場所。
 バスケに取り憑かれた俺たちは、そこの隅でフリースロー対決をすることにした。

 部活をやる理由なんて見つからなかった。だけど、俺は練習後の体育館が好きだ。男臭い部室も帰りのコンビニも、部員のみんなも。明日も朝練があって早弁して、その毎日が大切だ。

「……1回ぐらいお前に勝ちたい」
「それはレギュラー争いに勝ってからだな」
「うっせ! 1年なんかに負けるかよ。もう1回やるぞ!」

 時間は限られている。だからこそ、燃えよう。部活ってつまり、そういうことだろ?

08????

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