読んでいた本を閉じる。深いプールから出て息を乱しながら深呼吸するような、おかしな達成感が湧き上がっていた。最後の一文が僕の中で蘇って、そういえば最初の文章はなんだっただろうと、もう一度本を開いてしまう。不意に視界が明るくなって、窓を見ると朝の光が部屋を照らしていた。
 自然に出た溜め息は、後悔ではなくて。

 僕の頭の中には小宇宙が広がっている。たぶんそれは、神が人間に平等に与えたもので、僕の脳内が特別価値を持っている訳ではないと、知ってはいた。だけど無性に、無限の可能性を感じている。日を重ねるごとに広がる小宇宙は、なんとなく生活するだけの僕の心を支配した。たとえ忘れてしまう記憶だとしても、たとえ僕の身体が消滅してしまっても。刻まれている、気がした。

 手元にある本は、たくさんの人が読んでいるけど、読んでいない人もいることを、誰もが知っていた。馬鹿らしい優越感に浸って、今日は何をしようかと考えてみる。
 今日も小さな星が生まれる。
 僕の小宇宙には、たくさんの人が生きていた。



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