先週から、どうも違和感を感じていた私は、ついに先生に相談した。友達に手を振ったあと、逃げるように図書室の蔵書部屋に入る。見慣れた光景は、他の人が見たらゾッとするに違いないもので、6畳程の薄暗い部屋に本が詰め込まれたように置かれている。焦げ茶の本棚はもういっぱいで、足下にダンボールを敷き詰め更に重ねて、保存状態など考えてもいない。そのため、先生が座る椅子まで1メートル幅の道ができているのだ。
「先生」
一瞬、顔を上げて私の存在を確認すると、また物語の中へと入っていく。それでもいいや、聞こえてればそれで。
「私、友達に嫌われてしまったようです」
「……ようです、とは?」
「最近なんとなく、陰で笑われていたり、置いていかれたりするんです」
「それはそれは」
先生の相槌は、冷たく笑っているように聞こえた。言うなれば脇役の弟の、長い長い物語の中のひとつの騒動にしか感じてない。自分が生徒に相談されているなど、思ってもいないのだろう。
「君は僕にそれを言って、どうしたいんだ」
「先生の意見が聞きたいだけです」
食い下がる私を、先生は観察するように見た。読んでいた本を閉じ、体勢を変える。髪がふわりと揺れた。
「……僕は、僕だったら、そんな友人とは付き合わない」
暫し沈黙。私の友達は、先生にバッサリとやられた。そんなこと言われてしまうと、はたして「友達」と呼んでいいのかさえ不安になってくる。
「それは、酷いです。それなりにずっと一緒にいた子達です」
声が震えた。ぐるぐると渦をまいて大きくなるそれを、先生は見透かしている、絶対。面白いものを見るような目で。
「……それなりって。君はその“それなり”の人と将来歩んでいく可能性は、どれくらいあるのかな」
「それは」
怖い、という感情が先にきた。笑っているのかわからない口角。私達の周り全部が本で埋め尽くされ、一体先生はどれだけ読破したのだろう。……違う。そんなことを考えに来たんじゃない。先生にそんなことを言ってほしかったんじゃない。
「明日は、」
視線は本のカバーから私の目へ。震えるけど、先生を否定したい。
「……明日は変わるかもしれないじゃないですか」
「変わる日が来るまで、君は笑顔を作って、追いかけ回すのか」
「そうですね」
「……惨めだな」
好かれようと無理に頑張る日々が始まる。確かに惨めだけど、だけど私は先生ではないから。それは仕方のないことのように思われた。
「先生」
「何だい」
「応援して下さい」
開き直った私を不思議そうに、そしてゆっくりと微笑んで言った。
「頑張りなさい」
その表情は、一番教師らしかった。