後夜祭が始まる。ステージの向こうに生徒が集まってきている。転ばないようにしなきゃとかいろいろ考えていたら、また緊張してきたので、ヤザキのCDを鞄から取り出してみる。何も考えなくていい、そう言ってくれてる気がするのだ。

「ああ、やっぱり工藤さん指名して良かった。緊張してる?」

 佐久間君はまた何かに登場するらしく、ピカピカのはっぴを羽織っていた。やっぱりこの人はすごい。

「ちょっとだけ」
「へえ。あ、そのCD」
「え?」
「それいいよな。歌詞がすげえ好き、俺も持ってんだ」

 私はゆっくりと頷いておいた。だって歌詞なんて見てもいない。ボーカルの声は音が繋がってるようで聞き取れないし。しばらくして、私は佐久間君が去ったあと、好奇心で歌詞カードを取り出して読んだ。
 恥ずかしいほどの恋の歌だった。
 乱暴な音が浮かぶのに、単純明快で情熱的な言葉、時にはセンチメンタルで。本番前だというのに、体が熱くなってくる。奥の方、たぶん締め付けた帯の辺りから力が抜けていくようだった。

「後夜祭始まるぞー!」

 アップテンポなBGMが流れて、実行委員らしき人が叫んだ。スピーカーが近くて、ぐわんと鼓膜が揺れる。騒ぎ出す生徒の声は、私には聞こえなくなってしまった。

「最初はこちら! はい、浴衣コンテストです」

 それはあまり記憶にない。光が眩しくて、全校生徒と目が合う感じが恥ずかしくて堪らなかった。そして、どうしてもヤザキと目が合いたくなかった。司会者からの質問も何言ったかわからない。ぽうっとしながら、1番好きなあの歌のフレーズが流れていた。

 あいしてる
 いつまでも

 その言葉は私に不似合いで、意識したことのないものだった。だから、恥ずかしくなったんだと思う。

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